アルゼンチンつれづれ(258) 2000年05月号

由野の冒険

 私、親になるにあたって、子供達を独立、独り立ちさせることが一番大切な役割り、と心得てきた。
 女の子であっても、安易に一人の男性をサポートするだけの付属物であってはいけない。
 自身の仕事から、自在に行動出来るだけの経済力を生み、自分の家を構え、思いのままの生活がある…そんな風に生きてゆくように、子供達が生まれた時から、私自身の反省を込め、言い聞かせてきた。
 由野が“CNN”にはなくてはならない技術者となり、経済的に独立でき、弁護士になる大学生の玉由の面倒までみているこのごろ。
 その間を縫って、フランス料理の学校へ通い、いよいよ“シェフ”になるのだと。
 小学校以来由野の卒業式は何度もあったのだけれど、私は今まで一度も出席をしないできてしまった。今度は、ニューヨークまで行こう。
ニューヨーク空港に降りたつと、人種ということに大きく直面する。さまざまな人種の一つの人種を荷なって、私の子供達が生きている。涙がこぼれそうになる。子供達といると私は甘やかしばかりになるから…と日本に住むことにしてしまったいきさつ。
レ・コール(学校)という名の、由野のフランス料理の付属レストランヘ。由野が学校レストランで作る最後の料理を食べにゆく。 「由野のお母さん」と大切に迎えられ、窓際の一等席。さっぱり、スッキリのレストラン装飾は、とても感じがよかった。
ボルドー産の赤ワインを選んで、白い豆のスープが運ばれてきた。トマト、タマネギ、べーコン、ガーリック、ローリエ、セリが判別できた。セージの葉が飾られ、良く調和されたスープ。
 魚料理は、キッチンから運ばれてきたのに火傷をしそうに熱々のスズキのムニエル。付け合わせは、ゆでただけのジャガイモと、キューリ、エシャロッテ、と、トマトのソテー。今までかつて食べたムニエルの中で一番おいしいものだった。外側はカリンと焼け、中は今、火が通ったところ。由野の同級生が特別心を込めて作ってくれた。
 肉料理は、子牛のシチュー。牛肉の外側だけ焼け、肉汁をたっぷりふくんでいる。これ以上良い加減はないだろう。すごくいい。幾切れかの肉をいただいたのだけれど、この日このシチューのために、由野は彼女と同じくらい大きな子牛の解体をしたのだそうだ。
 ジャガイモの皮もむけなかった由野が、姿の動物も魚も自在にこなし…そんなことまで出来るようになって…。もっとも、全身筋肉痛になってしまった。と言ってはいたけれど。
 デザートは、マンゴーとパイナップルのフィナンシェ。マンゴーシャーベット添え。なんと美しい、おいしい芸術品。レストランのデザート専門シェフの作と。
 そして、コーヒーの後、由野の学んだ学校内を案内してくれた。
 一部屋になっている大きな冷蔵庫、調理場教室、デザート部門、パン部門、まかない部門。思っていたよりずっと大きく、シェフの帽子をかぶった先生方があちこちに見うけられ、「由野のお母さん」と、とてもあたたかい。由野が、この学校、レストランの皆と良い仲間でいたことがよくわかった。本格的だった。
 より一層のフランス語にも、料理に必要なワインのソムリエをもめざし、まだまだ由野の冒険は続くだろう。

 
 

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