ことのはスケッチ 2009年(平成21年)11月

 

『加速器』

 日本原子力機構、東海研究開発センターより、ノーベル賞を受賞された小林誠氏による受賞理論の解説講演と、先端加速器や大型測定器など実験設備を公開する旨、メールが届いた。
 もちろん参加させていただく。
 この頃、よく出掛けている講義や講演には、物質の根源が何であるか、という研究を可能にするには、「加速器」が不可欠であると。
 私なりに物質、生命、とにかく一番もとにたどりつきたい。知りたい。
 講義を受けたり、本を読んだり、何となく分かってきたような。人はなぜ、そのようなことを思いつくに至ったのだろうか。なんで、目に見えない、存在の気配もない、取りつく島のない状態のものを、操作するという、驚き、呆れ、のめり込む。
 とにかく本物に近付かなくては。折角の、今の世の最先端に是非入り込みたい。
 茨城県の東海村へ行く常磐線に乗る。東海駅から原子力科学研究所まで、送迎バスが用意されてあった。
 バスの車窓の東海の町に、人間の姿が見当らない。ちょっと焦る。十五分程で原子力科学研究所に着いた。そこには、夏休みの子供連れの人達が大勢いて、こんなに沢山の子供達がこのことに興味を持っていることに安堵したりして。
 『霧箱を使って放射線を観測しよう』コーナーで、アルコールとゴミを入れた透明容器を、ドライアイスで冷やし、光を当てると、小さな飛行雲みたいに放射線が放出されているのが見られた。五感では感じられないものを、方法によって見ることが出来ることを知る。
 レモンや備長炭、人間でも電池が出来る実験にも参加し、いよいよ本命へ向う。
 リニアック・直線型の加速器。
 地下15mを実感するため、自の足で階段を降りる。
 全長330m。イオン源で大量の陽子を発生させ、陽子を加速させる高周波措置に平行して歩く。畏れ多いような、恐恐みたいな、はじめて踏み込んだ実物の加速器。
 3GeVシンクロトロン・リニアックで加速された陽子を、もっと加速するおむすび型の加速器。昔、遊んだコイルが巻いてある磁石を超大型にして、それが超多大にあり、何だか人間の発想が可愛らしく思えた。
 物質、生命科学実験施設・シンクロトロンからの陽子ビームを水銀の原子核に当て、中性子を発生させたり、炭素の原子核に当ててミュオンを発生させたりする装置があり、実用への支度かな。
 50GeVシンクロトロン・3GeVからの陽子ビームは、ほとんど光速ほどにも加速され、ニュートリノ実験施設とハドロン実験施設に供給される。
 ニュートリノ実験施設・陽子ビームをニュートリノ生成標的に導く電磁石群を歩く。約300q離れたカミオカンデまで飛ばし、ニュートリノの変化を性質を調べるのだという。
 ハドロン実験施設・原子核・素粒子の研究で、宇宙の始まり、自然の根本の解明に。
 物資を極限まで分割すると、どうなるのだろうか。よくわからないものは壊してみる。
 加速器のエネルギーがより高くなれば、より激しく壊れ物質の極限の小さい姿がわかってくる。どんどんわかってくるものを、知りたい。

 
 

 


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