ことのはスケッチ(381) 2010年(平成22年)9月

『水』

 物心ついて以来、不思議をいっぱい抱え込んでいた。「水」も不思議、不思議の困った存在だった。
思いたって出掛けたアルゼンチンと、父母の日本とを五十回か六十回か往復した。
地球の丸さを見ながらの飛行、ずっと太平洋、大西洋、その大きな水の広がりを見つづけていたのだった。
イグワスの滝の周辺の水に近寄り、その大量だったこと。アマゾン河、ラ・プラタ河…むこう岸の見えない大きな河も、水は流れ、流れ続けて終りはしない。
幼かった頃の、ザリガニ捕りや、うなぎを掴まえた沼や池や小川。
植物への水やり。井戸から汲んだ水。水道の水。飲む水。食べる水。人間の身体の70%は水といわれる。
水の分子記号の「H2O」がどんな状態になっていて、目に見える水になるのか。
化学者ではないから「知りたい」などとは、おこがましいことかもしれないが。
このごろ「水」を調べていたら解ってきたような、解らないような。
水分子は、酸素原子1個と水素原子2個と結合している。
 酸素原子は、マイナスの電気を帯び、水素原子は、プラスの電気を帯びる。ひとつの水分子のなかにマイナス電気を帯びた部分とプラス電気を帯びた部分ができるということで、この『極性』により、水分子の水素は他の水分子の酸素と緩やかに結びつく。
 このことを『水素結合』といい、1個の水分子は、周囲の4個の水分子と水素結合により、籠状に結合する。
 水を加熱すると熱エネルギーによって、水分子は動き回ろうとするが、水素結合により、自由に動き回れないから、沸点が高くなる。
 水が凍ると、水素結合により水分子が規則正しく並び、空洞が増え、体積を増す。
 水が液体から気体になる温度も高く、従って蒸発しにくく、水素結合により水は安定した性質をもっている物質であることを理解した。
 水は、ほとんどの物質を溶かし、水中に拡散させ、片寄ることなくゆき渡る。
 原始地球は、チリや天体の巨大衝突後、内部も表面も全体は、どろどろに溶け、重い鉄が中心へと沈んでゆき、核が形成され、二酸化炭素や水などがガス化して、地球を覆う大気をつくった。
 地球が少し冷えると、大気の中の水蒸気が雨と降り注ぎ、地球の表面は、さらに冷え、岩石、地殻が出来、降り注いだ雨が溜って海ができた。
 海の中の、熱水噴出孔から吹き出した地球を形成する物質は、かたよることなく拡散し、生命がはじまるのに必要な化学反応を起こしたにちがいない。
 水という水の性質のゆえに、地球上に生命がはじまるに至ったことを肯う。

 
 

 


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