アルゼンチンつれづれ(179) 1993年10月号

日本へ引越し

 こうなって……こうなって……と筋道立てて物思うことなく、いつも単なる思いつきで始めてしまった。
 思いつきであっても、動きだしてしまうと次から次から対処してゆかなければならないことが現われるから、ひとときは始めてしまったことに没頭する。
 我武者羅から少しゆとりが出来てくると、いつも何かに夢中になっていないと落着けない性格の私は、次なる「思いつき」を探し出して突進する。
 今までの人生、こんなことの重ね重ね。自分自身を退屈させることなく生きてきたけれど、まだ終りとはならないらしく、またまた「もう日本に住みたい」と思いついてしまった。私ひとり、ひっそり日本住まいを決めたからといって、今までとさして変わることではないからと、まずアルゼンチンに置いてあった私の物を日本へ送り出す作業をした。
 私の抜けたアルゼンチンの家がたちまち存在理由を無くし、単なる事務所となるべく、今までのわが家のアルゼンチンでの形態を壊してしまった。
 「そんなに変えてしまうつもりではなかったのに」とびっくりし、「ま、仕方がない」と、このことを成り行きに任せてしまった。 アメリカで子供達と一緒に住むべく用意したサンタモニカの家からも、当然のごとく私の物を日本へ向けて送り出すと、かなりガランとした家の中を見回した。
 そして、東京で、アルゼンチンからとアメリカからの荷物を収容する私自身の住まいを探しているところへ、「玉由一人になっちゃったんだから、もっと玉由に適した所に引越すことにした。気に入った所を見つけたけれど、今度は小さいから、今までの家具とか入らないよ。いつか、大切な巻物が家にあるってお母さん言ってたけど、それはどこに置いてあるの? どうしても必要な物だけ言ってね。玉由一人に要るもの以外は、皆教会に寄付しちゃうから」
 「え!そんなことになるのなら、もっと取り込んで日本へ持ってくればよかった」
 もっとも日本が一番住宅事情が悪いから、私の実力じゃ、荷物すら持ち込んで暮らせない。子供達の意志と趣味を発揮してくれることは私の願いだから、知らず知らずの私の押し付けから解放してあげられる良い機会が来たんだ、と納得してしまった。
 「二、三日のうちに新しい電話使えるようになるけど、忙しくて留守が多いから、留守電かFAXしておいてね」と玉由からの報告があり、彼女の引越作業は完了したらしい。 夏休みを日本で過ごし、新学期が始まるボストンの学校へ帰(?)っていった由野が、「今学期の授業はとても難しいんだよ。沢山勉強しないといけないんだ。寮の友達と一緒の部屋じゃどうも都合が悪いよ。自分一人のところ探すね」
「物騒なんだから一人にならない方がいいよ」とは私。
「セキュリティのしっかりした丁度良い所が見つかった。ベッドと机は買わないといけないんだ。まだ電話ついてないけれど、もうすぐ電語とFAXナンバーを知らせるから」 由野の引越しも落着するらしい。
 アルゼンチン事務所の新しいナンバーがFAXされてきた。
 私の引越の連鎖反応に恥入りつつも、思いついてしまったから、私ももうすぐ新しいナンバーになる。

 
 

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