アルゼンチンつれづれ(266) 2001年新年号

サンクスギビング

 アルゼンチンでの用事かたがた、セリーナさんと、南極近く、モレノ氷河までスケッチにゆく計画をしていた。スーツケースには、南極でも大丈夫であろう衣類を詰め込み、氷河を思いえがき日本を発った。
 まず立寄ったニューヨークで、“アルゼンチンの大がかりなスト”の連絡を受け、地球を半周して出掛けても、今回の用事は足せないであろうこと。
 そのまま、ニューヨークに滞在することにしてしまった。
 『私の出来る限りを尽したのだから、もう独立しなさい』、と子育て終了宣言をし、別々に住みはじめてしまって以来、子供達とゆっくり朝昼晩の生活をしたことがなかった。今回機会があり、せっかくの親、せっかくの子供達。
 子供達の学び、働くニューヨークの日常に割り込んだ。
 すぐサンクスギビング(勤労感謝)の日が巡ってきた。
 この日、アメリカ中が、母親の家へ、父親の家へ、と里帰りをし、アメリカ開拓料理ターキー(七面鳥)を食べる。今年は、シェフになった由野が私を助手にして仕切った。
 ニューヨーク一のグルメマーケットでの大量の買物、三人だからいくらでも持てる。
 最大は十キロに達するターキー。必ずという決まり物、クランベリーソース用の品、グレイビーソース用の品々、ターキーを色どる付け合わせの野菜類、調味料…。
 由野のこだわり、七時間がかり、みごとこんがり焼きあがった。
 “煮っころがし”や“酢の物”の私の味の中へ、子供達が、こうしてアメリカの味を加えてゆくのだなあー、と。しみじみと限りなくおいしかった。
 もちろん食べきれる量ではありはしない。大ターキーを解体。友人におすそわけする分、冷凍庫に詰め込む分…。家中にターキーの匂いを残し、そしてターキー騒動は終了。
 そのサンクスギビングの連休を利用して、ワシントンD・C・へ行くことにする。
 あと半年で、アメリカの弁護士になる玉由の是非行ってみたいという最高裁判所、毎日のニュースにきっとでてくるホワイトハウス、アメリカに暮す者として知らなければいけないこと。
 より正確に物事を把握するには、とにかく出掛けて見てこないことには。
 飛行機は、フィラデルフィア、ボルチモアの上空を飛び、地図のままの地形を見下ろしニューヨークから一時間足らずでワシントンD・C・へ着く。
 ワシントンD・C・に暮す人々の生活の中に、モニュメントが散在することを思いえがいていたのに、決してそんなことではなかった。
 広大な敷地に、歴代大統領それぞれの記念堂、記念碑、アメリカ合衆国議事堂、国会図書館、FBI本部、歴史館、博物館…とにかくの公の建物、その姿は、ギリシャ神殿風であり、ローマ風…威風堂々、まことに美しく立派に…。アメリカの税金がしっかり使われているところをトロリーバスに乗り降りして見てまわる観光の地だった。
 玉由は最高裁判所に行けたことで、今勉強している諸々にであい、今度のアメリカ大統領選挙の裁判が行なわれるだろう法廷の傍聴席にも座ってみた。
 そして、私もアメリカのニュースが身近になった。

 
 

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