アルゼンチンつれづれ(93) 1986年07月号

国際子供会議

 インターナショナル・スクールの九年生、玉由は六月初旬卒業式を迎えます。日本流に言えば中学を終える訳で。上の学校を……とすなわち高校探しをしましたけれど、フィギュアスケートとの両立、日本の教科書で勉強してこなかった子供を、今になって日本の学校へ入れる訳にもいかず……。アルゼンチンヘ帰る可能性を確かめに、先日、私一人アルゼンチンヘも様子を見に行きましたけれど結論は、「今はまだ帰っても仕方がない」
 やっぱりアメリカヘ行こうか……。
 玉由がアメリカへ行くとなると、いよいよ一家離散。あと一年間、中学を終えるまでは現状を維持させたい由野の存在。いつも玉由の都合で由野の生活を打ち破ってきました、もうこれ以上は!
 アルゼンチンとブラジル、アメリカ、日本に事務所がある父親は変らず「お父さんは飛行機に住んでいるの」と小さかった由野が言ったような生活を続けてゆく訳だし……。
 私は「それぞれの三人を訪ね巡る役目をすることになるのかなあ!ちょっと新幹線に乗るくらいで解決出来ることではなし、うまくやれるかな!やれないかな!……」もう考えても仕方がないから実行してみる。
 日本にいる世界の子供達が集い、各々の国の立場、言語、民族性等を発表し合い、平和に緒びつけてゆきたい、という主旨の“国際子供会議”という催しがありました。学校から依頼された玉由は、万国旗、民族衣装の人々、テレビカメラ、スポットライト……にもめげず大勢の前で、英語と日本語でスピーチをしました。話し終えた玉由に「良いことを言ってくれた」と握手を求めた人達がいました。英語の方は、「こういうことを言ったのよ」と説明してもらわないと、私にはわけのわからないスピーチでありました。私の劣の部分を“何ともない顔”でこなしてゆく子。 玉由が書いた日本語の方の原稿を原文のまま紹介します。
 『私は、アルゼンチンで生まれ、現在15歳です。両親が日本人ですから日本を知るため4年前に日本へ来ました。こちらに来て、まず最初に気付いたことは、空気の味と匂いが違ったことです。アルゼンチンの主都ブェノスアイレスとは“良い空気”という意味で、実際、今考えてもおいしい空気でした。ですから日本の空気がすごく気になりました。
 日本には、車や工場が沢山あるので、空気が汚れるのは当然だと思います。かといって日本から車や工場を無くすことは出来ません。でも、このまま空気を汚し続けるわけにもいきませんから、排気ガスが出ない車を考えだしたり、工場が有毒の物質をそのまま捨てたりしないように工夫をしなくてはいけないと思います。
 空気の汚れがひどくなったら、植物が枯れたり、もっとひどくなると太陽の光が地球に充分とどかなくなります。そうしたら、地球がほろびるわけです。
 世界中の人々は、原子爆弾のような傷つけ殺し合うようなバカな物に力を入れないで、もっと地球をきれいにする方法を考えたほうがいいと思います。
 現在、放射能の事故のニュースを聞き、友達ともよく話し合います。まだ始まったばかりで、したいことがいっぱいあり、今まで勉強してきたことをまだ役立てていない私達の未来を、そんなに急いでこわして欲しくありません』
 拙い日本語力の子供達を連れて日本へ来て四年。この文章を私に残し、そして玉由はアメリカヘ行く。

 
 

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