アルゼンチンつれづれ(239) 1998年10月号

アルゼンチノサウルス

 私がアルゼンチンヘ行き着くよりも前のこと、前も前、何億年も前のこと。
 アルゼンチンの大地を巨大な恐竜が闊歩していたらしいことは、決して誇大な妄想ではない。アルゼンチノサウルスなんて名前までついて、全長四十メートルにも及び、地球始まって以来の陸上最大動物の骨格がアルゼンチンのパタゴニアのネウケン州の砂礫岩層から発掘され、チュブ州では、恐竜の皮膚の紋様痕も化石となって発掘されている。恐竜を証明するにこと欠かない。
 アルゼンチンは広いから、いくら大きな恐竜が沢山いても困らなかったことだろう。今掘り出されているのが“全て”のはずがないから、アルゼンチンを掘れば、まだまだ恐竜がいっぱい埋まっているはずだ。
 恐竜などからしたたって石油が出来たんだということだし、世界中の飛行機、自動車工業等々…尋常ではない石油の量。どれほどの恐竜がいたことか。
 アルゼンチンの大地から掘り出された恐竜が、ラ・プラタの博物館にあるということで、ブエノスアイレスから車で二時間ほど、アルゼンチン生まれの子供達を連れて見に入ったのは一九七八年、子供達が七歳八歳の頃のこと。
 大きな大きな、それは大きな恐竜の骨の前に立って、子供達の背丈よりはるかに大きな大腿骨であったことを身をもって見た。
 そして、その骨格が生きて動いている動物であった頃のことを思った。
 おまけに恐竜の糞の化石まであった。その頃降ったのだろうか、大きな雨粒の化石も。その時の私の短歌は、
巨きさの理解出来ざる幼子を連れて恐竜の尻尾のあたり
わが姿化石となるはいつの日か巨き大腿骨の風化止めされて
あまりにも古き世のもの並ぶなか獣の糞の化石をよろこぶ
 ラ・プラタ博物館から日本の上野の博物館へ、子供達と見に行った地上最大の恐竜がやってきた。頭から尻尾までどれだけ沢山の骨の組合わせ、化石だから骨に見えても石になっていて重い。こんな大騒動がまかり通る時代になっていることにびっくりすると共に、私の家から十五分もあれば恐竜に逢えるこの日々を、せっせと通って太古に思いを馳せている。
 大きいといえば、アルゼンチンの南極に近い地方をパタゴニアといい、恐竜の発掘続出の地、時代はぐっと新しくなって、ほんのちょっと前までのこと(パタとは足の意味で)大きな足の人達が住んでいた。足が大きいことは背丈も高く、今の人類をはるかに越えた大きさだったと。
 南米の洞窟に、恐竜に人が乗っている姿が描かれているという。恐竜だって、一度に全部居なくなってしまったのではなく、人間の時代まで生きのびてきていた種もあったにちがいない。
 大型の気侯であった地球が、大型の動植物に合わない気侯になってきて、徐々に今の人間の気侯へと変化してきたのだと思う。
 わからなくて、わかっているようで、その長い年月の長さはとても身をもってわかることではないけれど、そのとてつもないことを想像してみる。私の部屋には、太古のかけら、木の化石やアンモナイト、魚、羊朶等、重い同居物がある。
 とにかく地上最大の動物や巨大な人間…がいたアルゼンチンに系わったことに喜々としている。

 
 

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