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ことのはスケッチ(344)(345) 2007年(平成17年)8月9月
『高尾山で植物観察と草木染』
新聞の拾い読み・・・林野庁関東森林管理局、高尾森林センターの「高尾山で植物観察と草木染」一般公募イベントの記事をみつけた。往復ハガキで申し込みをした。
ラスベガスや世界のいろいろなところで、ルーレットの一点張りを何回かは当てたことがある以外は「当った」ということがない人生だった。
「どうせ当たらない」と決めていた。ところが「おめでとうございます、当選されました」と復のハガキがかえってきた。
丁度、高尾山をくり貫いて「高速圏央道」を造ろうとしていることの「是か非か」叫ばれている山だから、是非見に行きた。
梅雨の最中の、素晴らしく晴れた気持ちの良い日だった。
高尾山口駅からイベントのチャーターバスにのり、バスは、高尾の町から山へ山へ・・・。
途中「小仏関跡」の碑があった。大きな石碑の裏に与謝野鉄幹の歌
○ すがすがし関所の跡の松風にとこしへ聞くは大人(うし)たちのこゑ
この碑の除幕式に出席したときの与謝野鉄幹の歌
○ 岩魚をばすすきにとふしひたしたる山のくりやの朝の水おと
この碑の除幕式に出席したときの与謝野晶子の歌
○ をかしけれ人目の関の掟にはあらぬ山がの関の話も
ちょっと昔の、ここで詠まれた歌に出会えてうれしくなった。
バスは日影バス停に着く。それより国有林の日影沢林道に沿うせせらぎの木洩れ陽の道をゆく。
樹木の放つフィトンチッド、天然の水の音、安らぐ安らぐ。登り着いた森林センターで、今回のイベントの開会式、所長挨拶・・・など思いがけず立派に進行し、当選して集まった三十人ほどは真面目になった。
まづ、高尾山林道を歩きながら植物の説明を受け、観察をし、丁度若葉が出揃った時期、やわらかい優しい緑の木々の間を、ブナの原生林を、あちこち巣箱を見上げ・・・。
足元には、ヘビイチゴの赤い実がずっとつづき、「ヘビイチゴって食べられるんですって!」「ウバユリがやっと葉っぱを広げたところ」「ハナイカダの花はまだ」「植物シモバシラの不思議な花の話」「ムラサキシキブとヤブムラサキシキブの葉にはえる毛の異なり」「当日の草木染の主役のキブシ」・・・。
落葉低木キブシは、四月ごろ、葉の出る前に黄色い花を、穂のように垂らす。そのキブシのようやく出揃った若葉を摘んで、煎じた。
豆汁に浸し、よく乾かした木綿のハンカチに輪ゴム絞りをしたり、板締め絞りをしたり、各々個性を発揮した作品を、煎じ液に浸す。後、アルミ媒染で萌黄色に、鉄媒染で黒く染まる。それぞれの絞り染が、高尾山の自然の不思議を加えた作品になり、薬になり・・・。
こんな貴重な木々草々が生えている高尾山の地層は、小仏層群。
数センチ、数十センチ・・・の硬い砂岩と薄い粘板岩が相互に何層にも重なり・・・一億年程前、中世代白亜紀の海底に堆積した層が、激しい地殻変動で山となり峡となり・・・。
植物を観て歩き、地層が見え・・・地表に現れている収縮層は、ポロポロと脆くくずれた。地球の始まりのエネルギーを、地球の履歴を、目の当たりにしこんな高尾山をくり抜いてトンネルを作ってはいけないのではないか。
○そんな地層にヒトリシズカが花穂をたてている。
一人静木魂は遠く呼び交はし 福 永 耕 二
一人静花のさびしさ見せもせず 河 野 南 畦
○ヤブレガサが、あちらこちら名前のとおりの姿で生えている。
破れ傘まこと破れて夏の草 高 野 素 十
やぶれがさむらがり生ひぬ梅雨の中 水 原 秋桜子
○高尾山のゆく先々、歌碑、句碑、石碑・・・貴重な文学、文化の山だった。
仏法僧巴と翔る杉の鉾 水 原 秋桜子
○野鳥の会を創設した中西悟堂
富士にまでおよぶ雲海ひらけつつ大見晴らしの朝鳥のこえ
○正岡子規の「高尾紀行」
麦蒔やたばねあげたる桑の枝
屋の棟に鳩並び居る小春かな
穂薄に撫でへらされし火桶かな
○多摩を、高尾を、愛した北原白秋
我が精進こもる高尾は夏雲の下谷うずみ波となづさふ
高尾やま蒼きは杉の群立の五百重が鉾の霧にぬれつつ
子らと在り杉の木のまを射し来たる朝日の光頭に感じつつ
この山の榧の木群の榧の果のここだかなしきこれや我が子ら
叢咲きて粗き臭木の花ながら奥山谿の照りがしづけさ
鳩笛や子らを連れゆく山路にぞほろこと吹きて我はありける
この夜聴く杉のしづくは我が子らも聴きつつぞあらむ枕しつつも
○安藤広重のスケッチ
江戸時代の浮世絵師の高尾山鳥瞰図はアメリカに行ってしまったというけれど、なんとか見る方法はないものだろうか。
もっともっと知りたい。書き残したこともいっぱい。心残りはあるけれど、親しくなれた高尾山と共に地球に在ることを。
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