ことのはスケッチ(398) 2012年(平成24年)2月
「カウントダウン」
私の年中行事、ニュヨークでの年末年始に向け、慌しく飛行機に乗る。
慣れているとはいえ人工の空気、気圧、長時間の抑圧…の飛行に耐える体力作りに励んだ効果があるかな。このごろは、ニューヨークまでに浴びる放射線の値までわかってしまったから、地獄にいるような気持にもなる。飲みかけの水のペットボトルが“ペチャンコ”になるのが空恐ろしい。
『女の子が世界で自分の力で生きてゆく』という方針で育てた私の子供達の選んだ生活の場ニューヨーク。
『とても住めないと思ってしまう、私と掛け離れた感覚のところ』ここで働いている子供達がいじらしく、せめて時には近くにいてあげたい。
朝から、寒さも厭わずタイムスクエアに集まってくる人、人。救急車、パトカー、警備の人人。囲を作るための冊が並べられ…尋常ではない騒動になっているのが窓から見えている。
これとは別の子供達流のカウントダウンの場は、1907年に建てられたホテルのバー。
ピカピカ光を放つティアラ、2012年の字のメガネ、トンガリ帽も鳴物も…もちろん私も皆と同じピカピカ光らせて。
ここに集ったのは、シリアから引越ししてきたばかりのラーニヤ。彼女は、暴動で殺されかかっていた犬を常に連れている。この日のためにスーダンからとんできたレイ。ニューヨークで働いているスペインの子。日本からボイストレーニングにきている日本の歌手二人、そのマネージャーが二人。私達三人。世界まぜこぜカウントダウンの大騒動。シリアの犬に、またの恐怖をよびおこしてしまう騒音。
そして日本が新しい年になってから十時間後にニューヨークも新しい年になったのでした。
さっそく歌手のボイストレーニングがはじまりました。新しい曲を、アルバムを…。
当事者みたいな顔をして、私も付き添って見守りました。
ビル一つ、防音の沢山の部屋にわかれていて゛一部屋づつ、ピアノ、ドラム、エレクトーン、録音設備…全部備わり、トレーナーの先生がおられる。
日本の歌手が日本語で自曲を一曲歌った時点で、アメリカのトレーナーの先生は、全てを把握された。
すぐ、背筋を正し、胸郭を広げることを指示され、声をクリーンにする喉のコンディションに乳製品はタンが発生するから食べないこと、酒類、コーヒー、紅茶、タバコ、など刺激物の禁止。呼吸法のトレーニング。これ等のことを守るのであれば教えましょうといわれる。
全部のことを守る生活をすることを確かめた後の、先生の懇切なトレーニングを受けた彼の歌の変化に驚いた。彼はきっとヒットする。
それを見とどけると、今度は私自身にかえり、ニューヨークに行く度に通うアトリエで、無我の時を、絵を描く、描くのだった。
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