ことのはスケッチ(408) 2012年(平成24年)12月

『元素』

 昔のこと、よっちゃん(お手伝いさん)が湯たんぽを入れて下さって、布団の端をトントンと押さえ、子供部屋から出ていってしまうと、『さあ考えよう』待ちどうしかった時間のはじまり。
「何を考えるのか」といっても、地球に生まれて少したっただけの幼い頭でのこと。「地球のはじまり、宇宙のはじまり“はじまり”がとても気になっていた。
 そしてその時わからなくても、大人になったらわかるのかなー。神様は“こんなにわからないことを考える”という部分を人間から消しておいてくだされば良かったのに…。とか思いながら眠った。
 充分な大人になっても、この悩みは未解決のままだった。
 科学・化学の本を探すと『宇宙には最初、水素とヘリウムしかなかった』と書かれているけれど、気に入らない。そんな止まっている“はじめ”がある訳がない。『宇宙には、その時水素とヘリウムしかなかった』と言うのなら分かるけれど。
 水素とヘリウムしかなかった時から…ゆらぎ…集まり、爆ぜ…物質が出来…今の宇宙になってきて…今が過ぎ…今の宇宙に出来あがっているものが爆ぜるなり、何らかの宇宙的な作用で大分解し…またもとの水素とヘリウムに戻り…ゆらぎ…集まり…。
 人間の頭、人間の作った時間や算数では量る、計り知れない宇宙のサイクル、はじまりを境界も終りもない永劫…。今の私の宇宙感。
 全ての物質のもと、元素をまずしっかり知りたい、と思う時、「元素のふしぎ展」が催されていた。
 放射性元素など難しいものを除き、118種のほとんどの元素が並び、目に見える、感じられるかたちになっている。
 水素は透明で見えないから、ニッケル水素電池や水素ガスボンベが置いてあり、炭素は鉛筆の芯やダイヤモンド、ネオンは街のネオンのような光りとなり、様々な宝石類の結晶。だんだん元素というものの正体が分かってくる。

 いつも使っている日本絵具、顔料が、私の家のと同じように並んでいた。これも元素のレベル。銀箔を張り、イオウで燻し、燻し銀の絵を描くのが私の好きな技法。これもまた元素。を実感しつつ。

 アルゼンチン側からアンデス山脈越えをしてチリの港まで行く道の辺、山々は虹の様に様々な鉱物の色をしていた。そこここの石を拾い帰り、その石を砕き、乳鉢でつぶし、ニカワに混ぜ、絵を描いた。そんなことも思い出した。

 「元素体重計」というのにびっくり。この体重計に乗る。酸素42・4s、炭素16s、水素6・5s、窒素1・8s、カルシウム0・9s、リン0・7s、硫黄0・13s…まだまた元素は続いた。人体は酸素が約6割にあたるそうだ。人間も星々と同じ物質で出来ているという意味が分かった。

 アルミニウムと同じ体積で、金塊は重く、持ちあがらない、アルミニウムは軽かった。レアアース、レアメタル、人工元素…まったく宇宙遊泳しているみたい。今使われて便利になったものに、元素が工夫応用さこれていることを知った日だった。今夜は元素に抱かれてゆっくり眠ろう。

 
 

 


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