ことのはスケッチ(413) 2013年(平成25年)5月

『牧野富太郎博士』

 小・中学生の頃の夏休み、牧野富太郎博士を習い、自宅の庭の範囲だったけれど、植物採集をした。新聞に挿はさみ、重い本など重しにし、二・三回新聞紙を取り換え、完全に乾くと、きれいな紙に移し細く切った紙で要所要所を止めた。
 草、木、花を乳鉢でつぶし、水に溶き、それぞれの色調で遊んだ。そんなことばかりしていた。後、東京に住むと、練馬の「牧野記念庭園」を訪ねた。博士が命名された“センダイヤザクラ”の咲く時、博士が奥様の名を付けられた“スエコザサ”にも出会えた。
 この頃、上野の国立科学博物館に於て、「牧野富太郎展」が開催された。
 父や母の居た昔にかえれたような、なつかしい気持にあふれた展示だった。
 そこで、博士が和歌、俳句を詠まれたことを知る。
…家守りし妻の恵みやわが学び…世の中のあらんかぎりやすえ子笹…
 (奥様を詠まれた)
○朝夕に草木を吾れの友とせばこころ淋しき折ふしもなし
○我が姿たとへ翁と見ゆるとも心はいつも花の真盛り
○いつまでも生きて仕事にいそしまんまた生れ来ぬこの世なりせば
○布にすりし昔の里のかきつばた
 (カキツバタの花デハンカチを染められた時の作)
博士十七歳の勉強心得「赭しゃべん鞭一いったつ撻」(抜粋)
@ 忍耐を要す=植物の詳細は、ちょっと見たくらいで分かるようなものではありません。
A 精密を要す=不明瞭な点があるのを、そのままにしてはいけません。
B草木の博覧を要す=草木を多量に観察しましょう。
C 書籍の博覧を要す=出来る限り多くの書を読み、自分自身の血とし肉とし、それを土台に研究をしましょう。
D 植学に関係ある学科は皆学ぶを要す=植物の学問をする場合、物理学や化学、動物学、地理学、農学、画学、文章学などの学問もしましょう。
E 洋書を講ずるを要す=現在の時点においては、そうであっても永久にそうではありません。
F 当まさに画図を引くを学べし=生態を描写するのに最も適した画図の技法を学びましょう。
G 宜よろしく師を要すべし=先生と仰ぐのには、年の上下は関係ありません。
H 吝りんざい財者は植物たるを得ず=けちけちしていては植物学者になれません。
I 跋ばっしょう歩の労を厭いとふなかれ=植物を探して、山を登り、川を渡り、沼に入り、しんどいことを避けては駄目です。
J 植物園を有するを要す=遠方の珍らしい植物も植えて観察しましょう。
K 博ひろく交を同士に結ぶ可し=お互に知識を与えあうことによって、知識の偏りを防ぎます。
L 邇じ げん言を察するを要す=職業や男女、年令のいかんは、植物知識に関係ありません。
M 書を家とせずして、友とすべし=本は読まなければなりません、しかし書かれていることがすべて正しい訳ではないのです。過去の学者の誤りを正してこそ学問の未来に利するでしょう。
N 造ぞうぶつしゅ物主あるを信ずるなかれ=神様は存在しないと思いなさい。神の偉大なる摂理であると見て済ますことは、真理への道をふさぐことです。

 
 

 


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