ことのはスケッチ(446) 2016年(平成28年)2月

『天田愚庵』つづきB

 天田愚庵「西国三十三所巡礼」

一、先ず伊勢に詣で、次に熊野三社、然る後は一番より番号に従い。
一、一箇所に一夜づつ、参籠通夜をする。
一、札所の外にも、神仏霊場、名山大川、最寄に従い、参詣すること。
一、道中は漫りに舟、車、馬、駕籠に乗り、巡礼の本意を失うべ からざること。

表には、奉納 西国三十三所 為父母菩提裏には、南無大慈大悲観世音菩薩

この三十三枚を、緒を貫きて胸元にかけた。笠は深網代(ふかあじろ)。樫の撞木杖(じゅもくづえ)。

林丘寺の師〔由利滴水〕に御暇乞。三条より加茂河堤を行く。

比叡山越し、近江へ。伊勢の皇廟に参詣ののち、熊野路に向かう。

熊野川に沿いて上る。川合、敷屋、津賀…を経て、請川(うけがわ)に。湯峯〔熊野の温泉場〕洗濯もし、湯治もし、熊野本宮大社に参籠せんとす。

湯峯より音無川、熊野川に入る。

心身は無垢清浄光(むくしょうじょうこう)、天気は恵日破諸闇(えにちはしょあん)。今日こそ。

本宮より川船にのる。

熊野連玉神社、神倉神社に詣づ。飛鳥神社に詣で、丹敷神社、普陀落寺、これより那智。坂下の鳥居より御社へ石の階段、坂の両側には老杉が立ち、熊野夫須美神社。

那智山普照殿「青岸渡寺」。

底つ巌根つき貫きて普陀落や、那落も摧(くだ)け那智の大滝

那智川の滝、石英班岩の断崖百三十Mの岩の上より落ち、滝壺には近寄ることは出来ず

飛滝神社の拝殿に息(いこい)しのち、蔦葛(つたかずら)の険しい岩根を登り、大滝の上流に出、水源をさかのぼり、二の滝に至る。さらに三の滝あり。この辺り黒文字という香(かぐ)わしい木が多く、木を取り杖を作る。

大滝の上の落口に至る。巖角(いわかど)にすがり下を見おろした。

 これまでの記術より、私、正月休みを、まず、京都、産寧坂の「愚庵」あとよりはじめ、「那智の滝」への旅をした。
 愚庵さんみたいに、黒文字の杖をついて、熊野古道を歩き、いつどこ生まれの石なのか石に尋ねつつ石畳をゆき、青岩渡寺、那智の滝に辿り着いた。
 消えない虹を供なった神滝、その注連縄の滝口に、巖にすがり身をのり出された愚庵さんを偲んだ。
つづく

 
 

 


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