ことのはスケッチ(452) 2016年(平成28年)9月

「円空僧の和歌」A

 円空僧の出生地とされて伊吹山修験に全霊を注がれた。

  • 伊吹山法の泉の湧出る水汲玉の神かとぞ思う〔六一二〕
  • 延宝七年(一六七九)、円空僧が天台宗の僧として資格を得た歓びを、和歌に託して生母の霊に報告。
    円空僧が仏縁を濃くしたのは、母に死別した時からと思われる。
  • わが母の命に代る袈裟なれや法のみかげは万代をへん〔八八〇〕
    伊吹村観音堂十一面観音の背面に書かれている、高賀神社に残る「円空歌集」和歌。
  • 佳、おしなへて春にあふ身草木まで仏成る山桜哉〔九一五〕
  • さしもくさあや野の里の錦木は今日打染る菊花哉〔九一六〕

  • [高賀山峯稚児権現 詠]
     かつて、子供達が浮板がわりに使って遊んでいたと、表面がすり減っている円空仏がある。円空僧が、子供達の遊び相手になっていたと。
  • 奥山や小児の御峯の高けれは 雲のかけはし鵲の音〔一四三六〕
  • 手結ふ小児御宮の神なるか 七五三縄に書る玉房〔一三八〇〕

  • [高賀山 詠]
    立上る天の御空の神成か 高賀山の王かとそ念〔一一九六〕
    此や此おとろの山(高賀山の意)の峯晴て 照る月の形を見る哉〔一二五一〕

    [瓢が岳 詠]
    時在は安く登るこの山路 福部嶽主なりけり〔二一〇〕
    世をのかれ空にのほりて在明の 福部の嶽に出る月哉〔五六八〕

    [白山 詠]
  • 現る越し御山神ならは 見る度事に喜そ増〔三四六〕
  • 白山や越路の山の草枕 袖打払ふ雪かとそみる〔三五二〕
  • 白ら山や州原立花引結ふ 三世の仏の玉かとそおもふ〔一四四二〕

  • [星宮神社 詠]
    星 祭る五門竜門玉なれや 今日より先は楽にけり〔七四七〕

    [下田 詠]
    下田なる袈裟祭るの粥も哉 あふ人の口かとそ思ふ〔一四四七〕
    杉原熊野神社を詠んだ歌
    草木も結へる神のあれはとそ 千年にたる御宝の杉〔一三七二〕
  • チワヤフルたつかとそおもふ北の海只ひとすじに渡(わたる)日の本〔一一六三〕

  • [天台宗寺門派総本山三井寺]
  • 三井寺書おくことの文なれや古も今もかわらざりけり〔八八一〕
    (延宝七年)(一六七九年)
  • 三井の寺目出度法の車には万よ巻を積み重ぬらん〔七二五〕
  • 大比叡小比叡の峯をよそにして浦山敷も三井の寺哉〔一〇〇四〕

  • [大峯山 天台修験、真言修験、共同修業場]
  • 昨日今日小篠山に降雪は年の終の神の形かも〔八八五〕
  • 大峯や天川に年をへて又くる春に花や見るらん〔八六七〕
  • こけむしろ笙しょうのいわや窟にしきのへて長夜のこるのりのともし〔五七〇〕

  • [天台の教え]
  • 円成り頓き道だに有物を我心にぞうとまれぞする〔一二九二〕
  • 目をふさぎ月はいづくに在物を普(あまね)く照す心もや見ん〔八六六〕

  • [「心」詠]
  • 心から覚(まな)べはよしと云う道のもろこしまでも事はかわらじ
  • 玉ならぬ心の月を手に結べ世に在明(ありあけ)の仏成りけり
  • よしあしもをのが心の閑(しずか)なる思ふ心に神ぞ守る〔一一四五〕
  • 法の道心の内の乱髪とかで此世を過しぬる哉〔六七二〕
  • 心から法のすがたはあるものを花の主の思い在せ〔一三四三〕
  • とりとめよ心の玉の遊ぶらん万代までの美しき世に〔一四二五〕
  • 打蓋(うちおおう)三世の仏の母なれや糸一すじも捨やらぬよに〔五二三〕
  • 法の道御音(みこえ)を聞けばありがたや神諸共に明ぼのの空
  • 伝へ聞くこころの内は唐(もろこし)の春の遊びの花かと思ふ〔七七七〕

  • [極楽浄土]
  • 天地も清き御舟の池ならば法の蓮の世に浮ぶらん〔九〇〇〕

  • [悟り得た]
  • 楽しまん心と共に法の道月の京の花の遊か〔一二五六〕
  • うれしさはなににつつまんけさの袖かかる袂はゆたかなりけり〔六六〕
  • 古も今もちり行く花なれや嵐の風に世はまかせつつ〔七三六〕

  • [円空の仏像造顕]
  • 事もなきことを長く祈るなよいそぐ刃のひまお守るに〔二五四〕
  • 飛神の剱のかげはひまもなし守る命はいそぎ──に〔二四五〕
  • 作りおく此福(さいわい)の神なれや深山の奥の草木までもや〔七〇三〕
  • これや此くされる浮木とりあげて子守りの神と我はなすなり
  • ちわやふる峯や深山の草木にも有あふ杉に御形移さん〔五五九〕

  • [結果は凡て「仏」にまかせる]
  • もろともに浮世の中は神なれや思う心に身は渡りつつ〔七四九〕
  • 木にだにも御形(みかげを)移(うつす)ありがたや法の御音(みこえ)は谷のひびきか〔一三七八〕
  • 木に結三世の仏の形なれや心にかけよ玉のたすきに〔三三九〕
  • 君が代は千世に八千世と祈祷つつ守(まもらせ)玉へ四方の神々〔八〇五〕
  • 皇の神もうきよを思ふらんあまねく世代に守り在せ〔二〇八〕
  • 人間観
  • 皇の浮世の人は玉なれや四方の宝の涌るかずかず〔七四六〕
  • 歓喜はいつも絶せぬ春なれや浮世の人を花とこそ見れ〔一二六〇〕
  • 清み濁る世に浮草の絶えもせであまねく救ふ種をまきつつ〔一一三五〕
  • 出いかば千々の鏡と成玉ふ幾万代に御形のこさん〔七九二〕
  • おそろしや浮世の人はしらざらん普く照す御形再拝〔五七九〕
  • 作りおく神の御形の円(まどか)なる浮世を照すかがみ成けり〔一三三二〕
  • 作りおく千々の御形の神なれや万代迄の法のかげかも〔一四三〇〕
  • 幾度もたえても立つる法の道五十六億末の世までも〔二二二〕
  • 堂という止まる馬の足絶えていさみにかくる法の稿哉〔九七一〕
  • やすやすと遊べる今日は春なれや道行旅の乗の馬哉
  • 万代に破れ袈裟の衣哉朝日さける花かとぞみる〔一三八六〕
  • 飛騨の国ふる初雪は花なれや心の内の春かとぞ思う〔一二六一〕
  • 八雲山神の社に降雨は法の御音の音計して〔一二三〇〕
  • かみなりの空しかづかづなりつるは雲間に聞ふ法の音(こえ)々

  • [箱根]
    冬雲や箱根の関をへたつともあくる春には花とこそみれ〔五一二〕

    [武蔵野]
  • 折つかとて武蔵の野への糸薄き袖払ひ君がくるかも〔四一三〕
  • 冬のひは瀬々の戸さしのあさけれは流れて深き江戸に住らん〔四一〇〕

  • [松島瑞巌寺]
  • 松島や梳器の水を手向らん玉よりくるか結ぶかす──〔四三六〕
  • 我宿の一重の梅の開くらん八重九重の花のとなりに〔六八三〕
  • しのぶらん濁に染ぬはちすはの八重九重の神の台か〔三四五〕

  • [飛騨]
  • 墨山塵もつもりて足びきの登りのぼれば峯ぞ住吉〔二二六〕
  • 世に伝ふ歓喜ぶ神は我なれや口より出る玉のかつかつ〔七二九〕

  • [法華経の聖語]
    「今此三界は悉く是れ我有なり、その中の衆生は皆是れ我子な り」
  • 硯にはたまるみかげのたへもせで其の心をば神ぞしるらん〔二二三〕

  • [円空の和歌とは]
  • 御そへは大和言葉に和(やわらぎ)て予皇は万代までに〔九〇二〕
  • 御そへの作る文は皇の幾万代の神の為かも〔九〇四〕
  • 歌を詠むことにより、神や仏の魂をやすらげ人間の願いも叶うものという信仰があった
  • 作りおく心の神の形ならぬ世にうつくしき玉の言のは〔四八五〕
  • 唐の目出度字は形ながら大和言に歓喜ぞます〔四七九〕

  • [高賀神社]
    円空漢詩は八首。
  • 発心持戒日鎖関 阿耨多羅三世神
    棄桧此身豈末閑 菩提小室凡風身
  • 妙法円空前後客 天龍降雨福部嶽
    尽之多少有青山 日月星晨万歳春
  • 貞享甲子三光春 待三千年来白鶴
    重々雲霧天己垂 挙登峯嶽豈安身
  • 如伏活龍福部神 山王示現聞般若
    暫時会遇一楼鐘 雲霧連々福部嶽
  • 登福部峯弥勒春 白衣童子与天神
    時哉待我三千歳 初転法輪般若身
  • 千々万歳j春冬 待三千年福部峯
    会一楼鐘神遯迹 梵音般若在天龍
  • ☆閑株独坐福峯暁 仏法僧鳥聞一鳥
     一鳥一声人在心 人心般若去了々

    [空海作・後夜仏法僧鳥を聞く]

    ☆閑林独坐草堂暁 三宝之声聞一鳥
     一鳥有声人有心 声心雲水倶了了
  • 人天社稷祭神祇 甚盛蝗虫又不時
    民若失心無以食 引裾階下実辛眦

  • 寛永九年壬申歳生まれの円空にとり、元禄王五申歳は還暦。の歌

    [歌集に]
    「賀ほそき世のミの一は富ならで十ト云へは六八へにけり」
    一般に入定するのには千日が必要。穀絶ち、水絶ち。

    [円空が好んで書遺した歌]
    「いくたびも絶てもたつる三會の寺五十六億末の世までも」

    関市池尻、長良川畔で入定の素懐を遂げた。
    円空六四歳。

     
     

     


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