ロサ モスケータ (ローズ ヒップ)

地球の上の国と国と、言語、習慣、歴史、政治・・・細かく異なるのだけれど、人と人との関係では「何とかなるだろう」と、呑気なことでアルゼンチンに着いてしまった。  
そして、人と人とであっても
異なった言葉は通じ合わないないことに、びっくりするのだった。
どうしたら良いのかの日々は、家に籠り絵や図案を描いていた・・・、それでも「スペイン語を習おう」と思い立った。
スペイン語を教えてくださるはずの先生のルシータさんが来られ、勉強より先に「絵を持ってついていらっしゃい」と言うらしい。
三ヶ所目くらいに行った先が室内装飾グループの画廊、オーナーがセリーナさんだった。


セリーナさんは、一生懸命泣かないでいる私を、その出会で引き受けてしまわれた。
マチス、ピカソ、オナシス、マザー・テレサ・・・とにかくすごい人達のすぐ近くのセリーナさんの、彼女の生活に私を引き入れてくださったのだった。
アンデス山脈の麓、山と湖と、清麗なバリローチェへも、セリーナさんと旅をした。
空気が美味しいことがはっきりわかり、山も空も美しく神々しかった。アンデス山脈の雪解けの湖。湖に落ちたものは、深く深く、限りなく沈んでゆくのだという、浮力のない湖。


その湖の辺に、野生のバラが棲息していた。
セリーナさんが、小さなバラの実を指し「ロサ モスケータ」ビタミン、ミネラル、カルシウム、鉄分、ペクチン、その他様々な人に必要な栄養素をたっぷり含む美味しいジャムになることを教えて下さった。
宿った「ジャオジャオ ホテル」の朝食に、そのバラの実ロサ モスケータのジャムをいただいた。未知であった味は、おいしさ、好ましさ・・・わたしの身体が記憶した。

アルゼンチンの習慣は、朝食のパンに必ずジャムが要る。セリーナさんの食卓もロサ モスケータや2〜3種類のジャムが用意されるのだった。


今、日本にいて、どうしても皆に味わっていただきたい、とおもいつめる。はちみつ騒動に懲りることなく、またアルゼンチンの友人達を騒がせ、日本へ送り届けていただくこととする。


はじめてのものを輸入するということで、製造場所、製造行程、成分表・・・日本の税関が必要とする沢山のこまごま。すべて明確となる書類集め。スペイン語、英語、日本語にわたる。
「いつも食べていたのだから、何の心配もない、おいしいだけ」と思うのに、ひとたび国境を越えるということは大変なこと。自分の食べる分だけだったら、スーツケースに入る幾つかで足りるけれど、このごろお節介をする性格になったようだ。


アルゼンチンの地図を思い浮かべる。広大な国の一番南極に近い辺り、公害のあるところでは棲息出来ないパタゴニア種の野生のバラは、とうとう南極に近くやっと実を結ぶ。
地球の最後のおくりもの、本当の地球の味を味わっていただきたい。
偶然だったけれど、セリーナさんの誕生日、8月21日、「ロサ モスケータ ジャム」は、ブエノス アイレス港を出航した。はちみつと同様、大西洋、太平洋を船旅すること40日間。10月初旬、やっと横浜港までやってきた。
今、通関審査中。

天然はちみつの店 花守 

 

 

 


Copyright (C)2002 Yuri Imaizumi All Rights Reserved. このページに掲載されている短歌・絵画の無断掲載を禁じます。