ことのはスケッチ (348)
『 月 』

「名月をとってくれろと泣く子かな」  小林一茶 ものすごく昔から、この俳句が好きだった。そんな駄々がこねられる子を、 とっても羨ましかった。「私も欲しい」って叫びたかった。 この微笑ましい情景を温かく一句にした一茶に感じ入った。 「名月や池をめぐりて夜もすがら」   松尾芭蕉
なんて上手に表現するのだろう。
都会の喧噪にいるときもこの俳句の中に入り込む。
潮の干満が、月の引力から起こることを知った昔、驚きのあまり毎日海へ行って海を見ていた。
そして、地球も人間も月の引力の、月のリズムに同調していることを、自身をもって知るのだった。

地球圏外の土地を販売する会社が、アメリカにあるという。
インターネットで、最小単位、一エーカーの月の土地の購入手続きをした。
半信半疑。そして、忘れ果てていたら、宅急便で、法的に登録された私の土地を示す「権利書」「月の地図」「月の憲法」など届いた。

地球から三十八万四千四百キロほど離れていて、毎秒一キロのスピードで白道上にあり、いつも同じ側を地球に向け、月の円く見える縁に近いところでは、ほんの少し地球からいうと裏側にあたる部分がみえる。
四十五億年前(地球と同じ時期)にできたとされていて、月面、内部、の場所により月を構成している物質が異なるという。
溶け固まった玄武岩の「湿りの海」と名付くところに私の場所が出来たことを見届けた。

すぐ、ニューヨークの子供達に電話をした。
「私のお墓が決まったからね」「何処へ?」「お月さまへ」「本気!」「行ってあげたくても、行くの大変なんだから困るよ」「行かなくても良いんだよ、世界中の何処にいても、目で見えるところに居ることになるんだから」「寂しくないよ」「お月様って、ずーっと地球を向いていてくれるから、居る所決まって安心」。

江戸時代後期の司馬江漢の描いた「月面図」にも私の場所が見付けられる。
こんなことをしてしまって、厚かましすぎた、とも思うけれど、本当に、「私を置いておく所」が無かったのだから・・・。

○万葉集 巻一 (四十八) 柿本人麻呂
東(ひむがし)の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月傾きぬ

○万葉集 巻十一(二五一二)
味酒(うまさけ)の みもろの山に 立つ月の 見が欲し君が 馬の音ぞする 
○万葉集 巻二十(四四八六) 大炊王
天地(あめつち)を照らす日月の 極みなく あるべきものを 何をか思はむ

○ 山家集 西行法師(上秋 三六九)
もろともに 影をならぶる 人もあれや 月の洩りくる 笹の庵に

○ 山家集 西行法師(上冬 五一六)
旅寝する 草の枕に霜さえて 有明の月の 影ぞ待たるる

 
 

 


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