ことのはスケッチ (358)
『地球にて』

アルゼンチンで私の子供たちが生まれたから「よーく考えた」。
日本から一番遠い距離にあるアルゼンチンと日本の往来には、沢山の国々と関ることになる。
まだ、ハイハイをしていた子と、大きな椅子を持ち運び、椅子の上で背伸びをして本人以上のことをしょうとしていた二歳の子と、二人を並べ、『あなた達がどのように育って欲しいか』との希望を話した。

物心付いてから始めるのでは、大体のことについて遅すぎる、今から子供たちが十八歳になるまで、私の思い通りに育てさせて貰うこと。
私と同じほどに日本人にならなければいけないこと。
私が上手に出来なかった、世界で仕事をしてゆくこと。
自分自身の実力で、自分自身を満足させてあげること。
決して、他人の付属品になってはいけないこと。
生まれた国アルゼンチンを代表出来るようなことをする。

分けも分からなかっただろうに「お願いいたします」と頭をさげた子供たちと私との、時間も物質も心も・・・すべてを注いだ生活がはじまった。

まず、世界で生きてゆく言葉。
小さな二人を引き連れて、あの国この国、住んでみた。
世界で生きてゆくうえでのマナー。習慣。偏見のない心を。世界共通のスポーツを。
何ひとつまともに出来ない私の実行する、無謀さには気づかない振りをして。

フィギュアスケートで、体操で、それぞれアルゼンチンを代表できた。
沢山転んで、怖くて、痛くて、寒くて、・・・。辛かっただろうに・・・。前歯が折れてしまったり、足が太くなってしまったり・・・凄まじい日々は過ぎ、子供たちの才能を、最高に発揮させてあげられなかった私の未熟を詫び、「さあ、これからは、あなた達の思いどおりに生きてゆきなさい」。
アルゼンチンの家とアメリカの家から、私の荷物をまとめ、家出した。

ハイハイをしていた子は、世界に情報を発信する会社のコンピューター・サイエンスの要、無くてはならない人になっている。
椅子を持ち歩いていた子は、弁護士活動をしながら、音楽のことをしている。

二人の夏休みを、日本に来てくれた。
会社のパソコンと、自分のパソコンと、それぞれのホームページ・・・どうしたらよいのか分からないことが次々現れ,コードがグシャグシャ、もう大混乱している私を救済に。
壊れてしまったところは直り、最先端が導入されたことになった私のパソコン。頼もしい。一緒に住んでいたら、甘えてしまうから、やはり家出をしていよう。

椅子の方の子は、「今度、日本でデビューするアーチストとそのスタッフを連れてゆくから、お母さんの家には泊まらない」。
そのとおり、日本滞在中、とうとう一度も来なかった。
「大阪でライブをするから聞きに来て!」「名古屋でもライブをするの、きてね」
会社を休みにしておいかけた。

新幹線は予定どおり、大阪の街はお祭り中、タクシーはビクともしない。
ライブの時間に間に合わなくなってしまう・・・。
車を降りて走った。すごい暑さのなか。
「玉由の曲」が聞こえてくる会場にとびこんだ。

大混乱のまま放置してしまった私の子育てを、こんな風に整理整頓してくれた。

 
 

 


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