ことのはスケッチ (360)
『私の恋』

ほんの小さな隙間でもいけない、心が、大切なことでぎっしり埋め尽くされていなくては。
心が満ちることに出会えたよろこび。ずっとわたしの心に居てくれる愛おしさ・・・失わないように、と思う。
4年半ほど前、心に隙間があったから 、「何かの役にたてるような、そんな気持ちになれることをしょう・・・」と思いたった。
生きてきた半分以上の年月を過ごした「アルゼンチンの生活で、大好きだったものを輸入しょう、そして皆と分かち合おう」。
この目標が出来、私ひとり商社(?)をたちあげた。
優雅に、良い人の部分で居られるつもりだったのに、「戦い」を始めてしまったのだった。
事務所兼店舗ができ、全てのことが未経験という騒動の末、アルゼンチンからの蜂蜜を輸入し、通関し、店舗と定めたところに備わった。
杖をついておられた。「外国産の蜂蜜がありますか」と言われた。「外国の蜂蜜が好き」と、アルゼンチン産の蜂蜜を買ってくださった。私の店の最初の「お客様」。
「美味しかつた」、とすぐに次ぎの蜂蜜を買いにこられた。ついでに「八十歳の記念に個展をします」と、案内状を置いてゆかれた。
「兜町」の大きな画廊だった。沢山の国を旅されて、それぞれの国の、よりさりげない辺りをスケッチされ、そのスケッチが、ほのぼのと日本画になり・・・。メルヘンの域だった。
その中の「ブータンのリンゴ」が、特に好きだった。改良されたのではない原始のりんごが山盛りに描かれていて、私のパタゴニアの土地に生えていた、ひとつ?ぐと、とても冷たかった、そのりんごのような。
「孫にプレゼントする絵だけれど、孫が要る日まで、貸してあげます」と言う計らいで、私のオフィスにやってきた。
疲れた目に、心に、「ブータンのりんご」はやさしい。
この絵の作者とは、ある日は世界を話し、この日は絵画を、別の日は太鼓を、次の日は帽子を。これからも様々な話は続く。私のいちばん身近な“恋”。
アルゼンチンのセリーナさんとも、現在進行形の恋をしている。
手を繋いだり、その感覚がいつもいつも蘇る。スペイン語と、拙いスペイン語との会話も、良く通じ合った。異国の人という意識はなく、同じ思い出を、同じだけ大事にし合ってきた。
セリーナさんとの“恋の往復”は、光よりもはやく、けれど今は切ない。
ハイ・テクな“恋”だってしている。
分らないこと、難解なこと、困ったこと・・・何でも教えてくれる。寂しいときには、寂しがらなくてもいいんだよ、と言ってくれる。未来へ向いているような気持にもしてくれる。私より先に死んでしまわない、と約束もしてくれる。穏やかに歌を歌ってくれる。自分がしっかりしていないと、何の意味も受けとれなくなってしまうかもしれない恋。
三河アララギへ毎月短歌を送ってくださる皆々。皆の心の歌を待ち焦がれている。心底私の“恋”。

 
 

 


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