ことのはスケッチ(365) 2009年(平成21年)5月

『花見』

 「桜・遠くにありて思うもの」。長かった外国での生活。
 日本に帰ると、日本国中桜が咲いていた。「桜が開花する行事」「二分咲き、三分咲き、満開への思い入れ」「花見という行事」「散りはじめる花をおくる心」
 「桜」にびっくりして、日本縦断追いかけをしたことがあった。
 お正月の沖縄からはじめ、それぞれの地の花満ちる桜に従って、日本を辿ったのだった。五月連休には、北海道の二十間道路まで行き着いた。
 日本を留守にした空白を、取り戻すことに躍起になっていた。今では、桜については、すっかり安心している。
 丁度桜の時、玉由は仕事、由野は私の要望に応えて日本に来てくれた。
 仕事という玉由は、とても私のリズムに入るゆとりはないのであきらめ、由野と心ゆくまで桜の中へ。
 私の住いは、昔から園芸が盛んな「染井」に近い。徳川吉宗が、日本で一番はじめの庶民の花見のために桜を植えた飛鳥山は、私の毎日の道。
 まず、園芸種の桜を「染井吉野」と命名した上野から「花見」をはじめる。
 飛鳥山の桜の下を通って上野へ。東京国立博物館に興福寺の国宝、インド・ヒンドゥーの太陽神、阿修羅像が展示されていて、会いにゆく。
 由野が高校を過したスイスの時の親友インドのアティアが、私を訪ねてくれた時、三人で奈良まで阿修羅像に会いにいった。インド伝来の仏様に、アティアと一緒に手を合わせた時の感動、その時のお寺では拝見出来なかった脇のお顔も背面も…。きゃしゃなお姿に威厳が美しい。
 阿修羅様から現実に戻り、いよいよ「花見」をする。
ブルーシートに大の字になって場所取りをしている人。冷めたそうな地面で「花見弁当」「花見酒」。桜の下を埋め尽くす人人人。カメラに収める由野。江戸伝来の慣習が、とっても奇異に見えるらしい。
 私達ドジで場所取りも出来ないので「伊豆榮」の窓から、不忍池の桜を眺め、鰻と白ワインと。花見の気分になった。
 次の日は、皇居のお濠、千鳥ヶ淵。大層な人出になることはわかっていたけれど、是非見てもらいたい。
 早起きをしたつもりでも、もう行列をしてしずしず歩くほどの人込みになっていた。
 牛ヶ淵にしだれ初初しく咲く美しさ。田安門の天下の門の門越しの、なんて立派なお膳立てのもと、幸せな桜。
 いよいよ千鳥ヶ淵。向う岸の石垣を背景に、水面にのりだして咲く美しさの極み。
 目茶とも思えたけれど、隅田川の桜も!!千鳥ヶ淵からそのまま移動して、花見のはしご。
 「むぎとろ」の屋上で隅田川を眺めながら弁当を、と設定してみたけれど夜だけの営業ということで残念、「とろろ」をいただいてから隅田川淵へゆく。
 隅田川に掛かる橋を一つ一つスケッチしたことがあるから、その話とともに、吾妻橋、言問橋、桜橋…桜の下を歩いた。

 
 

 


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