ことのはスケッチ(367) 2009年(平成21年)9月

『化石』

 今から三十年前、アルゼンチンに住んでいた頃、こんな短歌を詠んだ。

○巨き土の理解出来ざる幼子を連れて恐竜の尻尾のあたり
○あまりにも古き代のもの並ぶなか獣の糞の化石をよろこぶ
○きらきらと輝やく物質含みつつ太古の羊歯は石となりをり
○年輪の確かにありて石となる一億八千万年前のブラジルの樹は
○泳ぎゐしはいつの日ならむ石の中石と化したる魚は重い
○高く高く空ゆく飛行機の中にゐて化石の重量私の膝に

 ブェノスアイレスから六十キロ程、ラプラタ河が大西洋となる辺り世界的に有名な「ラプラタ自然科学博物館」がある。地球に生きる生物の自分、しばしば出掛けたのだった。
 恐竜や動物達、その生物が残した痕跡、樹木がそのままの形で化石になっているもの、葉っぱ類、その頃降った雨の化石、巨大な獣の糞の化石など、ジュラ紀の地層の化石がいっぱい。
 今、生息していて、チャランゴという楽器になったり、食料にされたりしている三十センチくらいのアルマジロの、何倍といったら良いのだろう、直径三メートル程の甲羅の巨大アルマジロの化石を見た時今と過去と、どのように時が過ぎたのだろうか、何もかも巨きかった時から、今のサイズになったこと、その間、滅びていったもの、新しく始まったもの…。
 私が一番気になっている動物、ナマケモノを上野動物園へ時に見にゆく、ビクッともせずに眠っているばかりだけれど、しばらく近くに座っていたりしている。そのナマケモノも、やはり過去には巨大、三メートル位の化石骨格が残っている。「本当にいたのだなー」。
 アルゼンチンに来られると、私のアトリエを住いにされた農大、育種学の近藤博士。ペヘレイやカピバラや…。日本に居なかったもの、化石などを運びに来られた。巨大アルマジロの発掘では、大きな甲羅を壊さないよう、日本の和紙を甲羅に張って、慎重に慎重に掘られたこと。沢山のことを教わった。沢山の標本を私に残して下さった。
 恐竜達が今でもいっぱい埋まっているという、パタゴニアのネウケン州にも行ってみたことがある。
 恐竜や生物が残していってくれた石油の大きな埋蔵地で、砂漠っぽく、石油より水の方が高価だったことが驚きだった。地球の生いたちをいとおしみ、一歩一歩を歩いたのだった。
 幼かった子供達と見に行った史上最大の肉食恐竜「マプサウルス」は、ネウケン州出身。
 そのマプサウルスの成体と幼体達が、上野の「国立科学博物館」にやってきた。飛行機に乗って来たのだろうか。
 是が非でもと逢いに行った。懐かしい化石達に出逢えて、あの頃の気憶が甦った。
 化石化してしまってはもったいない、大切な過去があった。

 
 

 


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