ことのはスケッチ(370) 2009年(平成21年)10月

『世界最高性能加速器』

 東海村の原子力科学研究所での見聞が、私に浸透している。今まで見えていたものの見え方が変り、考え方もなんだか変った。ひょっとしたら私が変化してしまったかもしれない。
 見える範囲、知りたい範囲に、慎ましくしているつもりはかわらないけれど。
 つくば市の「高エネルギー加速器研究機構」より、加速器群や大型測定器などの実験設備を公開する旨を受けた。
 パソコンで、「つくば」へ行く方法を探す。いつも通過している秋葉原駅地下に、つくば行「つくばエクスプレス」が、いつの間にか出来ていた。
 これに乗る。新しさが快適、もう稲刈りがはじまっている田んぼの景色を見ながら、すぐ筑波山がみえた。
 筑波大学のすぐ近く、目的の「高エネルギー加速器研究機構」に着いた。
 入口で渡された案内地図に添ってBファクトリーを目指す。
 施設を循環しているバスは走っているけれど、自分の一歩一歩で、ここを確かめたい。
 薄の穂がやっと出たところ、初々しい。栗の木があっちこっちに、真ん丸の緑毬栗。一木を覆い尽くして紫の葛の立花。あ!アサギマダラ、「つくば」で出会えた。ジュラ紀の生き残り?みたいに大きなトンボが横切っていった。葦の穂に初秋の風が見える。……。こんな素敵な環境を、少し汗ばんで到着。
 ギリシャ語で「それ以上は分けられないもの」と意味する素粒子という存在。
 電子顕微鏡やX線や、とにかく見ることは出来ない、一○○○○○○○○○○○○分の一ミリメートルという小ささを、一周三qの加速器で、電子と陽電子とを、光りに近い速度に加速し、衝突させ、衝突地点に装置した巨大なベル測定器より、コンピュータを通した画像になって、人間の目に、私に見えることとなる。
 このメカニズムは、宇宙の始まりに向き、これからの全ての分野の基礎研究に、産業界に、役立ってゆくのだろう。
 ここでは、国内外の三千人の科学者、物理学者…技術者が研究をしているという。その内、千五百人は、若い大学院生だという。
 輝かしい未来へ。今、分かっていること、実績を重ねた方法などを基にして、地球上の全人類が知りたいと思うことに、まもなくゆきあたるのだろう予感がした。
 そして、あんなに沢山の○をものともしないベル測定器の、英知と努力と技術と可能性とを秘めたその姿はあまりにも立派だった。
 物理学、科学、工学、学問、研究それだけにとどまらず、アートとしても超一流の美しさであることがとてもうれしかった。
 自身の管理をし、健やかに生きて、宇宙の未知が未知でなくなることを見とどけよう、と思うのだった。

 
 

 


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