ことのはスケッチ(374) 2010年(平成22年)2月

『ニューヨーク物語』

 ニューヨークで働く。夜も昼もなく、十二月三十一日の夕刻まで働くのだという。玉由と由野と。せめて年末年始を一緒に過ごそう、との約束は守る。メールが行き来する。
 血圧は高い。目の前がまっ暗になったことがある。
 以前、乗りつばなしだった飛行機での移動も、人工の空気、圧力、乾燥、静電気…この頃、耐えられなくなってきている自身にびっくりする。
 飛行機の座席のグレードをアップしてもらい、家で寝るのと同じ条件の飛行ということで、私がニューヨークへゆくことにする。
 ケネディ空港に迎えられ、マンハッタンの真ん中、高層ビル群の中の一つのビルの十階、二人の仕事の場へは徒歩の範囲にある部屋が、彼女達の住まい。
 そこに私を置く”と、二人は、またまた仕事に行ってしまった。
 ここでの自分の居場所作りに専念する。仕事場を兼ねる二人の各々の部屋には立ち入らない。
 リビング及ダイニングは、大きな道路の交差する位置にあり、全面の窓はブラインドに覆われていた。片っ端からブラインドを開けてゆくと、総ガラス張りの宇宙船(?)がマンハッタンタンに浮かんでいる感じになった。気に入った。
 道路にとびだすほどの角位置に、机と椅子を運び、私のアトリエが出来上った。
 ニューヨークの街の朝、昼、晩、夜中…ニューヨーク”を眺めている。
 「仕事の途中だけれど、会社の近くのレストランまでドリンクしに来ない!」。玉由からだったり、由野からだったり、電話が掛ってくる。出掛けてゆく。
 シャンパンを飲み、生ハムなど食べ、話ははずみ、彼女達は仕事に戻り、私は宇宙船に帰る。
 絵を描いていると足元が騒々しい。見下すと、梯子車が三台、救急車もピポピポ三・四台。ホースと消火栓の接続が悪いのか、水が大量に道路にこぼれ、梯子が伸びてきた。足元の部屋に消防の人達が入ってゆく。
 このビルが火事なんだ。「どうしょう!」「大変だ!」と思う間に、何事もなかったように静かになってしまうのだった。
 帰宅した二人に報告しても、びっくりもしてくれなかった。
 宇宙人(?)と暮らしているような気持になってしまう。
 子供達を自立させるのには無力になるに限る。無力すぎる私のために、こんなに面白いニューヨーク生活を経験させてくれて…「ありがとう」と思っていると、電話が掛かってくる。
「ニュヨークで一番のシェフのレストランへ行くから」「一番きれいなのを着て、靴もね」「寒さ対策ばかり外出着なぞ持ってこなかったのに」。

 
 

 


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