ことのはスケッチ(375) 2010年(平成22年)3月

『マイアミ物語』

 私が言う「宇宙船みたいな家」は、ニューヨークのいちばんの繁華街タイムスクェアと巨大クリスマスツリーのロックフェラーセンターのすぐ近くに停泊(?)している。
 この家のガラス越しに、街の騒喧が、極めて寒い様子など、眺めていた。飽きもせず。
 「大晦日に、マイアミで仕事があるの」というに平穏は破られ、たちまちアイアミ行の飛行機に乗っていた。
 「ロスアンゼルス」に住んでいた頃の子供達の友人「ソムリエのション」が、年末年始の一週間を、マイアミの家で私達と一緒に過すため「サンフランシスコ」から来てくれるという。
 夜中のマイアミ空港に着くと、レンタカーに、ワインやシャンパンを山積したションが迎えてくれた。
 くるまってきた防寒グッズをぬぎ、生暖かい風を受け、十四日月の月明りのもと、なんだか映画の中に入り込んでしまったような気分になって、車は走る。
 プレスリーに似たションが加わった四人で真冬の暖かいこの世離れしたバケーションを過す。
 しばらく留守になっていた家に着き、ブラインドを開け、大西洋。海の音。星と月と。これ以上は何もない。
 買い置きの食べ物もない夜中、ションのカバンから出てきたスナック菓子と、シャンパンで、久し振りのこと、元気で会えたこと、ケンカしないで過そうとのこと……全部のことを祝して、“Cheers”。
 大西洋の水平線からの一直線の朝日に目覚める。ションが入れるコーヒーが香った。
 朝ごはんの材料もないこと故、まずマーケットへ、全員で出掛ける。
 料理は、ションが作ってくれるのだとか。
 ションがせっせと野菜、果物、魚貝、肉類をショッピングカーに突込む。玉由と由野は、家の主としてメニューの采配をし、そのうえ由野は、フランス料理のシェフだから、こだわりがあり、居候の私など出る幕なし。労わられているばかり。
 お腹がすいているから、買い物の山はどんどん大きくなり、その間、ションは、ショツピングカーを押し、重い物は担当し、私達をエスコートし、男の子がいるのはいいものだ、とつくづく思った。
 夜中のうちに掃除機がかけられ、ゴミ一つない砂浜を眺め椰子の葉はゆれ、走りにゆき、寝ころがり、時には波にも近寄り、仕事に出てゆくはあり、ジムに行って汗を流し、カウチで、話題になっているビデオやテレビを見る。
 お腹がすいたと思う時、ションがキッチンで何やら作りはじめる。ワインを飲みながら待っていたり、ションの空き間にちょっと入り込んで、それぞれの得意を作ってみたり…。
おいしいね。楽しいね。リラックス。リラックス。
 月は上昇し、星々も天辺へと。ベランダの寝椅子。こんなことだけしていた。

 
 

 


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