ことのはスケッチ(385) 2011年(平成23年)1月
『細胞膜』
「細胞…細胞…」。思い込んでいた日々。折よく、筑波の「高エネルギー加速器研究機構」より講演の知らせが届いた。
もちろん最先端を教わる筑波通いをした。「つくばエキスプレス」の車窓も楽しんだ。
細胞とは、生命を持つ最小単位。生物の最も基本的な単位であり、一つ一つの細胞が独立して生きている…同じような細胞が集まって一緒に生きている…。
「ヒト」の身体には、六十兆個の細胞が集まって、ヒトを構成しているという。
まず先に、細胞質の最外側にあるきわめて薄い膜に近付いてみることにする。
細胞の周りを囲む脂質二重膜で、主成分はリン脂質とタンパク質からなり、選択的透過、代謝物質の輸送、電気的興奮性、免疫特性などの機能をもつ。
細胞膜の主成分であるリン脂質には、頭部と尾部あり、頭部はコリン・リン酸からなり、親水の性質をもつ。尾部は、炭化水素からなり、疎水の性質をもつ。
極性をもつ液中で、親水性の水に馴染む頭部を外側に、疎水性、水をはじき油になじむ尾部を内側にして、二重層の膜をつくる。この細胞膜の様子を、今現在、これ以上には明確にはならないという、電子顕微鏡で、細胞膜の構造の本当を見ることが出来た。
丸い頭と、長い尾があるようなリン脂質の分子の可愛らしくって健気で、あんなのが私の身体にいっぱいあって…頼もしい。
「こんなこと知りたかった」と思っていたとき、私の一番身近だった人、大切な大切な人、アルゼンチンのセリーナさんを亡くした。私と同じの、六十兆個の細胞を失った。百%、同じ感覚だった人。
アルゼンチンに着いてしまって、泣くのを堪えきれなかった時、言葉がわからないことも、一文無しになっていたこともいとわず、セリーナさんは、私を彼女と同じ位置にして下さった。セリーナさんはアルゼンチンを代表するナースであって、マザー・テレサさんと一緒に、世界の百人の女性に選ばれてもいた。アルゼンチンで知らない人はいないほどの名家にして、彼女自身も室内装飾家≠ニ著名だった。
出逢ってから四十四年が過ぎた。アルゼンチンの全部を世界を、人間を私に教えて下さって、日本から遠くいることも気がつかなくなっていた。
あいさつをするとき、手をつなぐとき、いつもいつも、「ユリはマーママ(セリーナの母上)と同じ、細胞が同じ」と言ってくれるのだった。
「近くに住もうね」「一緒に住もうね」と言ってくださっていたのに…日本に帰ってきてしまった。
「どうして、こんなに遠い国の人と知りあってしまったのだろう」とセリーナさんを嘆かせてしまい、セリーナさんは今、しっかり私の心の中にいて下さる。
「もう遠くはないですよ」。「いつもいつも一緒にいるんですよ」。「セリーナさん、ありがとう」。
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