ことのはスケッチ(386) 2011年(平成23年)2月
『細胞』
もっとも単純な生命は、「栄養を取り入れてエネルギーにかえ、子孫を増やすことが出来るもの」と定義される。
それは三つの要素からなり、「生命自身の情報分子(DNA)」「さまざまな作業をする酵素(タンパク質)」「生体分子をくるむ膜」。
細胞膜がシャボン玉と同じ原理で丸くなり、水中を漂い、栄養を取り込み、酵素で分解しエネルギーを得る。この生命細胞は、DNAを取り込むと急速に分裂をしはじめる。
自己増殖中に突然な変異が起きることがあり、一つ一つの原始生命は個性をもつようになる。
単純な分子からはじまり、さまざまに分かれてゆき、今の地球の生物に至った。
ここまでわかればもう安心。宇宙のなかの異なる星の、異なる情境で、地球とは異なる姿の生命(?)が存在するだろうことを、私は勝手に疑わない。
超新星の爆発ですら個性があるというし、まったく同じ人間はいないのであり、無限大と思う雪も、その結晶の一つ一つが異なるという。分子の次元でも、まったく同じというものはないのだと私の結論にする。
宇宙始まって以来、たった一つの存在の自分をもっともっと大切にしょうと思う。
携帯電話のスイッチを切り、パソコンは持たず、メモ用紙、鉛筆、毎日使っている手回りの品だけ携え、成田行のスカイライナーに乗った。
夕刻近い淡い空、車窓の左肩に、十四日月が付いてきてくれていた。結構寂しくなる。
空港で出国手続きをし、ニューヨーク直行便に乗る。
何度繰り返したか数えきれないけれど、離陸する時は、これで死んでしまうかもしれない、と切なく思う。
生物は、基本的には生きるために生きているのであって、死は避けなければいけない。
怖いから、お酒の酔いで自分を誤魔化していて、我にかえると、飛行機の窓のやはり左肩、十四日だった月が十五日の円さになって、ニューヨークに着くまで一緒にいてくれるのだった。なんだか宇宙の一員になれたような気持になった。
宇宙船の停泊中のようなニューヨークの玉由と由野の家で、友人達が集まってきてくれて…外国で生きてきた自分を、沢山沢山思い出すのだった。
ニューヨークに雪が降りはじめた。どんどん積る。サラサラの雪だから、一度積ったのもまた巻きあげられ、吹きとばされ…。
超高層ビルのまん中辺りの窓にいて、降ってくる雪、降ってゆく雪。厭きず見ている。
林立し、聳え立つビルを吹きあげる風、吹き巻く風、天然では起り得ないだろう。目茶苦茶な風が吹き荒れ、雪も滅茶苦茶。雪が沢山降りすぎて、隣り合うビルさえ見えなくなった。
吹雪は次の日までけたたましく続き、ニューヨークはマヒした。一部始終を眺めていた。
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