ことのはスケッチ(387) 2011年(平成23年)3月

『原子』

 星が生まれ、星が爆発し、宇宙に散らばった元素が集まって地球ができた。
 星屑の地球に生命がはじまり…人間へと繋ぎ、宇宙も地球も人間も、すべての物質は1センチメートルの1億分の1程の小さな粒の原子でできているのだという。
 宇宙における太陽系では、はじまりは水素とヘリウムしかなかったそうだ。水素は最も多く存在し、最も軽い元素であり、原子核に陽子を1個もつ、2番目に多いヘリウムは陽子を2個、炭素は6個…最も重いウランは92個と、原子核の中の「陽子の数」によって元素の種類は異なるのだと。
 プラスの電気をもつ原子核どうしはお互い反発しあってしまうけれど、超高温、超高圧、原子核どうしの猛スピード衝突の核融合反応により多種類の元素ができたのだと。
 ここでやっと加速器の意味がわかってきた。高エネルギー加速器研究機構へ幾度も出掛け、そのことは未来をみている心地だったけれど、命をかけた研究を、命でもって試された戸塚洋二博士の「がんと闘った科学者の記録」を読んだ。

 『抗がん剤治療…骨への転移、放射線で痛み止め治療をやろうということになり…電子リニアックで加速した電子を標的にぶつけてエックス線を発生させ、そのエックス線を患部に照射するのです。
 機械を見るとドイツのシーメンス製でした。たいした加速器でもないのになぜ日本製ではないのだろうか、などと余分なことを考えていました。
 リニアック全体を回転させエックス線の方向を上向きから下向きまで少しずつ変えて右肩に照射。右肩には常にエックス線が当たり、他の体には集中してエックス線が当らなくなるので放射線障害を減らすことが出来る。照射は1、2分で終わった。
 放射線治療の効果を大いに期待しました。当日夜、かえって肩の痛みが増えました。放射線の先生によると、反応性痛みとのこと、翌日から期待に胸を膨らましました。痛みは少し減ったような気がしましたが,無くなることはありませんでした。残念無念』

 「加速器とは」「加速器開発とがん治療への応用」とか…とても知りたかったから、講義を受けた。
 加速器を使って発生させた中性子を当て、核分裂する物質を利用した「がん放射線治療」。がん細胞だけを破壊させることが出来る臨床例は増え、病院に設置した加速器を使って、万人への治療がなされるようになるだろう。
 陽子線がん治療、炭素線がん治療、どの症状に、どの放射線治療が効果的か…研究は進み、人間を、3Dコンピュータグラフィックでシミュレーションし、患部を定めて照射する。
 身体を傷めることも、痛めることもなく日帰りでの治療が可能という。もちろん症によるだろうけれど。
 宇宙の元である物質を探しだし、工夫し、宇宙の申し子人間の病を直すという、ロマンチックに遭遇し、胸が高鳴っている。

 
 

 


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