アコンカグア

物を食べるという時は必ずワインなりアルコール類と共に・・・という生活をしていた、今もそうだけれど。
アルゼンチンの友人達と久し振りのディナーは、もちろんメンドサのワインと共に。忘れていた訳ではなかったけれど、改めて「なんて美味しいんだろう」。せっかくブエノス・アイレスまできているのだから、ワインの産地メンドサのワイナリーまで行ってみよう。


アルゼンチンに長く住んだよしみ、友人のホテルに泊ること、ワイナリーから出迎えてもらえることも決まった。
ブェノス・アイレスのパレルモ公園にある空港を飛び立った時は、まだ闇だった。一時間程のフライトで、明けてゆくアンデスの山々を見下ろし降り立つメンドサの空港は、朝日に輝くコルドン・デ・プラタの雪山の景色からはじまる。それはそれは胸に響く美しさ。
案内されるメンドサの街は、いたる所にアンデス山脈の雪解け水が灌漑と巡る。アンデス山脈の麓の、山脈と共に暮らす様子が伺われる。


車がメンドサの街中を抜け出すと、南アメリカ大陸の太平洋側に寄って八千キロも続く地上最長の山脈に添う景色となり、この山脈の一番高いアコンカグアを目指した植村直巳。夏のアコンカグワへ、冬のアコンカグワへ、ブェノス・アイレスのレティロ駅から、私のおむすび等日本風弁当を携えて、汽車に乗ってゆく植村直巳を見送った日のこと。今回は、彼が登ったアコンカグワに近付いてこよう、と心していた。


案内して下さる車は、雪の山脈にまで続くかの今は冬枯れ葡萄畑の中の道を突っ走っていた。こんなに美しい山々のもと、この山脈の雪解け水で育ち、稔る葡萄。その葡萄からできるワイン。メンドサのワインの美味しいわけがわかった、と納得する間に、葡萄畑の真中、目的のワイナリーに着いた。


ひと課程、ひと課程、ワインになってゆく行程、人間が考え出した美味しさへの作業、それぞれのそのための機械の造型にも心をうばわれた。
これら作業を経て出来あがったワインのティスティングをするにあたり、ソムリエみたいに「ぺッ」としてしまうのは勿体無い、十二本の試飲の、どれもみな飲んでしまったから、人並みのことは言えないけれど、美味しかった。折角のアルゼンチン、「アサードもステーキもなしでワインを飲むなんて・・・」とぼやいた。


メンドサ二日目、アコンカグアに近付きたい。
その昔、ずっと昔、海底であった所が隆起したという、「ほんとうに隆起したとわかる地層」アンデス山脈を横切つている、隣国チリへと至る「道」をひた走る。
様々色々鉱物が、層となり、岩となり、侵食が見え、木が生えていない、例年は、深い雪に覆われるという地に、今年は雪が降らなかったと、全体的に赤銅色のなかを何時間もただただ走る。こんなに沢山山があり、六千九百六十メートルのアコンカグアも、遠くから眺めるなんて訳にはゆかない。
アコンカグア・トレッキングの起点、プエンテ・デル・インカに着いた。インカの橋の意味で、そこから涌き出る温泉に含まれる様々な鉱物が地上で固まり、その奇妙な地球の色に驚き魂げるのだけれど、地球内部のマグマの様子を探る手がかりがあり興味は深深。途中見てきた山々の色に思いは至る。
「インカの橋」の反対側、石ばかり石ごろごろの山を攀じ登る、やっとアコンカグアが、同じ山並みのなかに、おもいのほか低く、私が立っているのと同じ高さのように思われた。

 
 

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