アルゼンチンつれづれ(9) 1979年07月号

ヒムナシア・イ・エスグリマ

 ハカランダは可憐な薄紫の花からは想想しがたいような、直径五〜六センチの、しっかりした若緑の外皮に包まれた平たい実を、少しく澄んで繁る葉の中から沢山のぞかせています。去年の実が爆ぜて種が飛んでいって、ぬけがらになった外皮も手焼の草加せんべいのようになって、所々に残っています。
 プラタナスやポプラは、いち早く葉を落し始めて、木に残る葉も少なくなって、点描法の一筆一筆のようです。日本のような色鮮かな紅葉は見られませんけれど、そんな木の葉が舞い落ちてくるパレルモ公園の中にあるクラブで、一家そろって運動をするのが、アルゼンチンの人々の大きなレクリエーションです。アルゼンチンの学校は、大きな校庭やプールがあったりはしません。体育の時間は付けたし程度のことしかしませんから、運動といえば、皆それぞれのクラブヘ行きます。
 クラブでお遊びコース、選手コースと大人も子供も自分に合ったものを選び、友だちができ、学校以上の比重を持っています。
 私たちが入会しているクラブは、フェンシングから発展したアルゼンチンでは老舗の、ヒムナシア・イ・エスグリマといい、誰でも知っている有名なクラプです。センターにある室内スポーツ用のプール、フェンシング、スケート等、思い当るあらゆるスポーツの設備と、保育室、レストラン、美容室、読書室等々を持つ一大建物と、パレルモにある陸上競技用スタジアムと競技用プール。そこから少し離れて、やはりパレルモ公園に接する屋外用のバレーボール、ローラースケート、プール、遊園地、馬場等々。会員は、この三つの立派な施設を月々会費を払って、特別経費のかかる馬術のようなものは維持費を別に払いますが、他は自由に使うことができます。 子供たちが学校から帰ってくると、私たちはクラプヘ毎日通って、六歳も八歳も一歩この建物の中へ入れておけば、顔見知りの人たちがめんどうを見てくれたり、一人で目的の場所で目的のこと、アイススケート、リズム体操、ダンス等をしています。私は、子供を待つ間、読書室で本を読んだり、陶芸室で泥をこねたりしています。
 パレルモの方の施設は、私がまず早朝の乗馬にゴルフに利用しています。土、日曜日には陸上競技用の四百メートルのトラックを一家四人で十五周することに決めています。トラックを外れて、人々がボートで遊ぶパレルモの池の方まで走ってゆくこともあります。走った後、子供たちは、ローラースケートを、私は汗をかいた気怠さに身をまかせ、木々や空をながめている時、満足という言葉を思います。南半球の本当にぎっしりの星々が、あっという間に見えはじめ、その日その日の月が登り、子供たちと夜空の話をしながら、木々がみんなシルエットになるまで過します。
 現在わが子の本命であるアイススケート場が修理中ですべることができません。この設備は、五十年も前からのもので、本当に直るのかどうか明らかでないのが、私たちの焦りとなっていますが、アルゼンチンにあと一つあるパリローチェのスキー場の小さなスケート場は、シーズンオフで営業していません。ですからアルゼンチン中に、ひょっとすると南米中にアイススケート場はないことになります。南米にアイススケートが盛んでないことから、何とか親善と発展の役に立てばとわが子に始めさせたのですけれど、人々の体質からくる習慣に逆らっているハンディの大きさを味わっているところです。諦めることが嫌いな私たちは、今を悪条件とはせず、身体づくりをして、より良いコンデイションでもって滑れる日を待とうと話し合っています。

 
 

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