アルゼンチンつれづれ(122) 1989年新年号

サンクスギビング

 「アメリカの生活飽きちゃったね」
「アメリカにもいろいろある、ということはわかるけれど、ここは人間も生活も気侯もワンパターンで」
 「“そんなことしたって仕方がない”とか、“危うきに近寄らず”といったことしか残ってないもの」
「子供達の英語も、この国の人と同じになったことだし」
「もっと心の通い合う人間らしい生活をしたい」
「レストランヘ行っても、とにかくアメリカの人によって手を加えられた食物の“不味い”という言葉が通用するお料理事情に呆れ果て、この国の料理ということを無視してしまっていたけれど、アメリカ伝統の料理というものにも挑戦してみないことには」
「それなりに、良いところだってあるはずだよね」
「早いもの、アメリカ生活三度目のサンクスギビングディ」
「我家のアメリカでの出発点として測るサンクスギビングディに積極的に参加するべき」「アメリカの家庭みたいに我家でもターキーを焼いてみようよ」
 さっそく“・Holidaycook・”というテーブルデコレーションもみごとな写真入の本を買った。さて、この本のように…というわけで。
 まずはスーパーマーケットヘ。さすが此の頃巨大なターキーをゴロゴロ売っていて、あの凄い大きさはアメリカの人が買う物だと思ってきた今までだけれど、いよいよ私が“どれにしようか”と選ぶのです。“若々しく、艶があり、大きな物”ということで22ポンドすなわち11キロほどのを抱き上げる。どう考えても我家にこんな巨大なものは不用だけれどこの際そんなこと言わないでアメリカに参加してみるのだから。
 まわりの人々も皆、巨大なターキーと、独立していった家族が集まる日の為の大山の買物。皆の買物の内容がほぼ同じ物というのが面白い。
 今度は、スタッフィング用、すなわち、ターキーのお腹に詰める物を。これは各家庭の持味なのだそうだが、我家は本のとおり。スタッフィング用というパン粉、調味料等がブレンドされた箱を取り込む、その他、エビ、カキ、ソーセージ、干ぶどう、リンゴ、玉葱、セロリ…これ等を箱の内容物と混ぜ、ターキーの内蔵から取ったスープでととのえ、オリーブオイル、シェリー等で昧付け。これを、ターキーのお腹に詰め込むというのがメイン作業で、あとは22ポンドが弱火で焼ける7時間の間に、これまた巨大なスポイトで汁を時々かけてあげればよい。7時間あまり台所でウロウロする間に、付け合わせのマッシュポテト、そこにかけるグレービーソース、とはホワイトソース状だけれど、牛乳のかわりにターキーの内臓から取ったスープでのばし、生クリーム、塩、コショーでととのえる。ターキー用ソースはクランべリー。クランベリーというべリーは我家近くのマーケットでは気配がなく、皆出来上って瓶詰になってるのを買っているので、私もそうした。
 デザートのパンプキンパイも、この辺で一番美味とされている店から購入。レシピだけは読んだから、何が入って、どのように作るか、ということは理解済みで。
 代々伝わった味、というにはいかないが、始めての野次馬挑戦で、我家のテーブルは立派な巨大なターキーが、姿よろしくこんがりと。

 
 

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