アルゼンチンつれづれ(128) 1989年07月号

玉由のアルゼンチン選挙権

 十八才になった玉由に、アルゼンチンから選挙をするように、という知らせがありました。日本の選挙のように、気が向かないから、忙しいから、と棄権をする訳けにはいかないのです。十八才以上の全国民が、国への義務を果さなければ、後に外国への出入国とか諸々に支障をきたします。
 私は、選挙年令に達して日本に居た間中、住民登録した所に住んでいませんでしたので何かに紛れ選挙をしたことは無く、アルゼンチンでは、永住権を取得しましたが、国籍は日本のままですからアルゼンチンの選挙権はありませんでした。そのうえ、私とアルゼンチンの係わりが出来てからは、軍事政権、革命政権で、国会議事堂はしっかり閉ざされ、鳩が群れ居るばかりでした。まったく選挙に関係なく生きてきてしまった訳けで…。
 今回、玉由が我家に始めてのアルゼンチン選挙権です。玉由は、アルゼンチン国民としての我家のパイオニアであり、彼女を通して私はアルゼンチンを知ってゆき、由野を続かせました。
 アルゼンチンの習慣、歴史…そういったことには不自由はなくても、政治についての知識は玉由には0です。私にしても、政治に口出しすると、ある日突然人間が跡形もなく消えてしまうとか恐しいことを聞きますので、何にも触らない辺りで暮すよう努めましたから、どんな政党があるかということくらいしかわかりませんが、知る限りを我家の話題にしました。
 わざわざこのことのためにアルゼンチンヘ帰るわけにはゆきませんから、在ロスアンゼルスアルゼンチン領事館で義務を果すべく、電語で様子を聞いたり、地図で所在地を調べたり…今時、大学受験、就職試験にまで親がついてゆくと聞きますが、いくら始めてで、自分の車を運転し始めたばかりで未知の所へ行くとはいえ、子供の選挙に親がついてゆくなんて断じて出来ないから「行ってらっしゃい。」
 「駐車する所に困ったけど、領事館に着いた。」とか「アルゼンチン人が沢山並んでいるわけよ。」帰りには「道を間違えちゃった。ついでに寄ってく所あるから。」付いて行ったより忙しい電話連絡があり、そして「お母さんおやつ買ってきたよ。」とおみやげ付きで帰宅です。
 それで一番気になる「領事館に大統領候補の名前が張ってあったの?」「誰に入れてきた?」「なんにも、誰にも関係ないの、ただ選挙に行った、というサインをもらってきただけ。」「おや、まあ。」と我家の選挙権は拍子抜け。
 もう、長い間アルゼンチンのインフレは続いています。今朝のニュースで、不満の暴動が報じられています。何ともったいないことでしょう、豊かな大地、天災のほとんどないうるわしい天候、政治の要素さえ加わらなければ何不自由のない国なのに、政治と名を借りた暴力がまかり通り、一番善良な人々を苦しめる。スーパーマーケットで行列していて「次の人からは50%値上げです。」といわれるような状況とか。
 今のアルゼンチンは、ずっと前から推し量ることが出来ました、でも、そのことのために私はアルゼンチンから逃げ出してきた訳けではありません。外国で生まれてしまった子達の親として精一杯考え、子供達を井戸の中に閉じ込めたくはなかったのです。世界を見、学び、そしていつかアルゼンチンと日本の何らかの役に立って欲しいとの願いから、現在アメリカ中。

 
 

Copyright (C)2002 Yuri Imaizumi All Rights Reserved. このページに掲載されている短歌・絵画の無断掲載を禁じます。