アルゼンチンつれづれ(185) 1994年04月号
税の申告
『ささやかでもかまわない。でも、これから先は私自身の生きたいように生きる』
まず本拠地となる住まいを探すにあたり、あまりに長い間、日本国の国勢調査の人口の数に入っていなかった非居住者という資格の私は、日本に自分の場所を持つための書類をそろえることが出来なかった。
足らない紙の手続きとは、パスポートを持って区役所へ行き、一番最近日本に入国した日をもって“日本へ永住帰国します”と東京大田区に住民登録をすることだった。
やっと私が家主となるべき私の家を借りる書類がととのった。
新しい場所に浮かれている間に“区民税、都民税に該当する申告をしなさい”との通知が来た。
はじめての日本国への税という経験は、どうしたら良いのか皆目わからなかったから、また区役所に出かけてゆき、アルゼンチン、ブラジルのことの、ボランティアという感じのことをしているというあいまいな私の立場は、どうしたら良いのか相談した。相談しただけで、「これで、あなたの申告はよろしいです」と照明された紙切れが返ってきて、一件の落着。
「税」ということで、私の「仕事」に思いが及ぶ。ボランティアは続けていてかまわないけれど、『日本で、自分の力で自分の収入を』という、日本に帰ってきた本来の目的から少しずれていることが今現在の私の苛立ちなのだけれど、長く留守をした所で、年齢とか、プライドだって……なかなか仕事を見つけることは難しい。
「家族」ということをサポートして、そこに安定や幸せ、あきらめも入るかな……その範囲に暮せる性格だったらどんなに楽だろうと思う。人からは、安心も安らぎももらえない。自分で自分の手応えを探すよりほか仕方がない性格になってしまっている。
自分の歯痒かった生き方を子供達に味わわせたくなく、『女の子だからと甘えないで、一生を通じての、自分の仕事を持ち、収入を得、確かな自分の生活が出来てから後に、恋があってもいい、子供を育てるのもいい……何よりもまずはじめに自分が自分らしく生きること』、そんなこと言いつつ育ててきた。 玉由と電話していた。「日本で税の申告を済ませせたよ」「玉由もアメリカで申告しないといけないんだ」「だって貴女は、お父さんからの送金で生活しているのだから」「それだけじゃないよ。申告するくらい収入があったの」「何をして?」「ジャネット・シャクソンのビデオに出たり、エリザベス・テーラーの香水のコマーシャルに出たりしたわけ」「オーディションを受けるところまでは聞いたけど、それっきり何も言ってこないから落っこちたんだと思ってたの」「その気になれば、こういった仕事はいっぱいあるけれど、今は大学の方を優先しているから、暇がなくて。それに、人の名前のことに係わるのはいや。自分が“主”になることをしようと思うよ」「でも、収入があったなんてすごい」
由野も、夏休みの間、日本でコンピュータ関係のアルバイトをしてみて、「いかに世の中がコンピューター技術を必要としているかわかった」と、ボストンヘ帰っていった。
「コンピューターの元を作り出す勉強だから、お手本があるわけじゃなく、難しい。だけど、これを身につけたら地球上のどこででも自分に有利だってわかっている」
由野はいったい、いつ、どこの国で税の申告をする、なんてことになるのだろうか。
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