アルゼンチンつれづれ(249) 1999年08月号

「地球にてU」

 佐久間義勝様
○今日のあり明日あることを疑はずわが窓の辺の椎の葉に風
を拝見し、悠々自適裡に明鏡止水の境地の日々を過ごされる方かと拝察しておりましたらこの歌集で南船北馬も啻ならざるヴァイタリティ横溢の日を送られていると知り驚いてしまいました。興の趣くままに溌剌と歌っておられて、まさに天衣無縫というべきか、とても楽しく拝見しました。
○櫓田の枯れて広がる関東平野枯れ色の向ふに陽の沈みゆく
大景をスッキリと読みとられました。こんな有名句が思い当たります。
「遠山に陽のあたりたる枯野かな 虚子」
○雪雲を映して暗き富山湾のど黒といふ赤き魚をり
仕事で柏崎にいた日、降り続く雪に楽しまぬ夜を呑屋のカウンターでつついた焼魚はのど黒でした。
○日本人の体型すでに変りをり足長く描く今日のクロッキー
集中最も感銘を得たお歌です。デザイナーの目が“変質する日本人”をとらえました。重い一首です。
○日蓮の銅像に並び背のびする同じき景色をわれも見てゐる
清澄山での偶感でしょうか。日蓮と同じ視線にいる気宇が壮快です。
○毎日のわが蛇口よりほとばしる水源をのぞく奥多摩の湖
満々たる湖面とキッチンの水がつながっている不思議−ウィットの一首。
○ゆっくりとゆっくりと起重機は動きをり東の窓にも西の窓にも
徐々に、しかも確実に都市は変貌してゆきます。歴史の歩みとはそういうものかも。
○少しばかり宇宙の中にのりいだす星ばかりなり飛行機の窓
飛行機に乗り馴れている余裕を感じます。
○秋となる雨降りてをり窓ぬるるワインレッドの傘さしゆかむ
“好きな”と言えば集中この一首でしょうか。灼けるような夏の陽のさし込んでいた窓に今日はやさしい初秋の雨 ワインレッドの傘がおしゃれです。
○思ひ出は今年もかくも鮮やかに曼珠沙華はわが母の華
何故か人の心をそそりますね彼岸花は。
○無限とも咲き満つる桜の花びらの今の幾ひら私に散る
燗漫と咲き盛る桜のみごとさ、そしてその分け前にあづかる恩寵。
 岡本八千代様
 ダイナミックで、生き生きとした躍動感にみなぎって、そして、由利さんでなければ表現出来ない拝情がこめられていると思います。
○満月は昨夜の丸さそのままに月の明りのボストンを去る
○櫓田は枯れて広がる関東平野枯れ色の向ふに陽の沈みゆく
○細雪をきしませ歩む兼六園わが足跡に次々の雪
○飾りなきただ黒色の絹を着て華やぎをりぬその光沢に
○自らの心のままに自らの身体のままに今日を過しぬ
○知る顔にゆきあひながら故里の葱は坊主となりたる小道
○しばらくは見上げてをりし石段を登りて出あふ木花咲耶姫命
○現状のままに今日も過ぎゆくを空しきとも安きこととも
  ありがとうございました。

 
 

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