5月 つつましく
朧朧の宇宙のなかにつつましく守りてゐますひとつの鼓動
ひととして生きる仕組みの備はりて穏やかに脈穏やかにうち
星ひとつ小さくい出し夕まぐれ幾光年かキラリまたたき
核融合エネルギーのかがやきを見上げてゐたり星星の夜
星々の星屑よりか生れしこと私の命のルーツの聞こゆ
グチグチと心の様を聴きをりぬこの人もまた星屑の人
不可能はまだ残りつつ可能とは138億光年をいふ
五十億年未来に太陽死にゆくと心配するといふにはあらず
宇宙なる果てより遠く思はれて九州へゆきにしひとり
五億年いともたやすく掌に三葉虫は石と化しをり
億年を埋もれをりたり三葉虫生きゐし姿のそのまま化石
幼子のひと握りほどデパートのつくしを買ふかつくし買はぬか
掘り取りし地球ひとかけ黒き土つくしが五本生えてゐる土
植木鉢につくしつくつく伸びはじむ共に過ごさむつくしの一世
金寂びし阿弥陀如来の御前につくつくつくしひともと立つる
跳ねる死ぬ凍るもありぬ数多数多命の見ゆる築地市場
ためらひは無きかにみゆる処理といふこと成されゆく魚の命
マンボウのスペイン語名わからずして話題乏しくマンボウの前
ズイズイズッコロバシ宇治川は澄めり豊めり速く流るる
平安のときに入りゆくシャリシャリと玉砂利踏み締む踏み締むる音
しっとりとしっとり苔むす宇治上神社何思はざる時の過ぎゆく
注連縄を纏ふ欅の大木よまろまろまろし光こぼるる
木漏れくる午後の太陽筋なして桧皮の屋根の新苔のうえ
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