2018年 短歌

5月  富貴寄

火の球と燃えてゐるのか太陽の光を受くる日向ぼっこ

ひと蕾ほぐれたちまち始まりぬ日本の国を覆ひて桜

恐竜より先に存在せしという土筆よ土筆スケッチしてゐる

三椏の樹皮も混じりてゐるだろふ日本のお札のつやつやつやし

百代の過客のなかに連なりぬ江戸和菓子富貴寄干菓子

御神酒一盃二盃三盃目おかわりしつつ明治神宮

神宮の百年前は荒地とて今日の若葉の深々杜を

素晴しい未来のあると思ほへて朝日を満たす私の部屋

父母(ちちはは)の歌集を抱(いだ)き日本を離陸せし日よあのことこのこと

思い出と新しきとをつなぎゆく父と一緒に母と一緒に

4月  天文学

自然との調和している心地してメタセコイアの冬枯れのもと

完成というもの何ももたぬまま未完のままのそのままゐたり

地球より八〇〇〇万光年離るるとそんな事情も受け入れて今朝

宇宙なる模擬遊泳の蘇(よみがえ)るファースト・スターを追ひかけたりき

鉢植のコーヒーの木と日向ぼこ午後の日長く居間に至れる

冬枯れの桜並木をゆくときは花の吹雪を思ひえがきて

三宝寺池の湧水流れ流れ私を過ぎる隅田川へと

東京薬科大学へもゆきしことカカオの結実黄色くありき

地球上のドーナツの形してブラックホールを取り巻くガスは

地球より天文学の距離にしてブラックホールの実映像よ

3月  千手観音菩薩

千のみ手に抱きくださる心地して千手観音菩薩のみ前

千の手と千の眼(まなこ)をもたれゐる観音菩薩を彫りし仏師を

いまだ蕾その手に持して咲き満つる蓮華台座に坐してをられる

寝食を忘れ書写されしとふ弘法大師の聖教目追ふ

空海の書写せしとふ教典の漢字のなかに梵字の混じる

家中の明りを消して音消して月の光を私に招く

遮るは何物も無し満月の月の光りに文字書きてゐる

南東の出窓にゆっくりのぼり来しまんまる月の月の光りよ

私の住みゐる地球の影にしてわずかわずかに欠ける満月

太陽と地球と月との次第にていま皆既月食進行中

2月  東雲(しののめ)

東雲の空に向かひて元旦の光りを私の部屋に招けり

東京の水道水を若水とこの年はじむブルーマウンテン

満月と私との距離近づきぬ最も近い今を見守る

電線の二羽の雀の囀りが聞こえてゐるよ元旦の部屋

遠き世の祖父母の教えに忠実に里芋コンニャク水菜の雑煮

里芋のぬめり成分なくさぬよふ遠き記憶の甦りつつ

湯げたつる家伝の雑煮食べ終へて戻りゆきたりニューヨークへ

富士山の噴火の名残のローム層土盛りあげて霜柱立つ

男(おのこ)なる丈(たけ)に小面装ひて女(めのと)と舞ふを蟠(わだかま)りゐる

幾十億の個性のなかのひとりにて海のなまこを只管(ひたすら)思ふ

1月  自らに

宇宙間の遊泳してゐる心地して地球儀まはすマルタ島みゆ

おほひなる過去の続きの続きにて今日の私に真白茶の花

自らに由(よ)りて生きよと父母(ちちはは)の名付けたまひし由利を生きをり

大根は水分地球に返し終ふ切干大根煮つけてゐたり

草陰に小さく居らるる地蔵尊その微笑の内を離れず

ここかしこ木の実草の実散り敷きて土の上をばゆっくりとゆく

花びらの黄蘇(きいよみがへ)る菊の花姿のままの天麩羅ですよ

近寄りてもっとも近くゐたる時「考えるひと」頼もしくあり

角材を薄くなしゆく光透くお釈迦様への光背づくり

掌に宝珠をそっと乗せたまひ私の地蔵尊救済に入る


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