2024年 短歌

4月  飛 行

音無しく飛行機の内にゐることよ丸き地球の一万メートル上空

点滅のライトがせわしい今飛びたたむロスアンゼルスに向けて

マイアミの飛行場へ向き飛行中マイアミのこと沢山思ひつつ

万感の真白き雲の中に入る真白き雲のただ白の中

白雲を抜け出づ雲の上に出る一番星のかがやきに会ひ

欠けるなしまん丸お月様は右肩にずっとずっとご一緒中

マイナス五十一度の外気温まん丸お月様とご一緒中

もし窓がこわれたらたちまち冷凍人間寒いだろう一瞬は

右肩に離れるでなしお月様九二八kmご一緒下さい

アメリカ合衆国フロリダ半島ロスアンゼルス太平洋上とんでとんで羽田飛行場

世界地図に鉛筆もて一本の線を引くか弱き線の終着地まで

あと928qの飛行にて早朝5時の羽田空港に着くことよ

地球にて朝の太陽光を浴びてゐる生きて地球にまたゐることを

世界地図に通過してこしところを印し親しくなりぬ地球のことの

朝も昼も夜もごちゃまぜにしてをりしこと地球の朝にしっかり立てり

3月  マイアミサニーアイレス

二ヶ月を留守にする家鍵掛ける私の気配守らむとする

スーツケースに万葉の歌四千五百一六首いざ出発

日本に帰り来たりて住みつきてまたい出ゆかむを思ひつきたり

大西洋の波打つことよ眠らむと波高き音聞く

波の音まくら辺にあり時々激しい時々やさしい

幾重にも重なり連なる波のあり今日は大西洋サニーアイルスビーチにて

大いなる大西洋の磯辺にてはるか彼方の水平線を

幾しづく大西洋の海の水すくいあげたりおおいなるロマンを

大西洋波打つ磯辺にて何処まで何を見ていることか

星幾つ残りてをり闇のごとこんなに暗い所にゐるよ

昼間見しことごとを思い起こしをりこんなまっ暗に明かりともさず

おほらかにおほらかにポーズするモデルを描く今日の幸せ

ハイウェイを三十分ほど突っ走りマイアミ・クロッキータイムに間に合ふ

ズブズブと磯砂ふみ分けサニーアイランドまず砂のありてなりたつ

群なして磯砂にいる鳥達の飛び発つはなし鳥と人と共存ビーチ

2月  クロッキー

6Bの鉛筆の芯を太く丸くいまし始むる人間の姿クロッキータイム

もう少し残るばかりの私の寿命やうやく気付きぬこの頃のこと

養生をすれば人間は百歳までは生きられるとカロチン・ビタミンCを加へて

人参のカロチン食むを楽しみぬ抗酸化作用細菌抵抗作用

人の脳細胞は約一四〇億個沢山残っていることとする

一つ日に三十粒の大豆を食めよ大豆サポニン私を守る

地球なる位置情報の画像よりニューヨークに玉由マイアミに由野

若返りをもたらすといふ胡麻アフリカサバンナより縄文期に渡来

体内の老化物を洗い流し老化を防ぐ血流向上の水

十両を薮柑子やぶこうじ百両を唐橘からたちばな千両万両朱実赤実の究極の赤

川の水と海の水と相ひ会ふことよ地球出来こし歴史を込めて

うっすらと汗をかく程の運動もなかなかしない冬日の日々を

父よ母よ受け継ぐ「三河アララギ」よ思い出ぎっしり未来へ誘う

都会道の片隅のムラサキシキブのピンクの実ムラサキシキブの紫の実

心地よく住みをり恵比寿の中空に見上げてここは飛行機の道

1月  地球にて

さりげなくおとなしくしてゐる日々あのことこのこと気付きはじむ

自らの判断をするその日まで母の限りを共有しよう

自らを自ら守る自分の心やさしくあれ安全にあれ

私の知らないことに向かひゆく我子等が居て地球いとしい

自の居る環境に適応し静かに静かに静かに居ます

私と同じ心が三つあるそれぞれ何処にありてもいとしい

歩き始めの幼子二人私の後に続くフロリダ半島ケネディ宇宙センター

雲に入る海を見下ろす長き長き飛行中の時をまた過しをり

地球儀を見ているような地球儀をくるくる回しているような

どうしても縫いぐるみのプーを離さない二才の玉由プーさんの足となる

真地球を幾十回も回りしことよアルゼンチン日本四万キロの航空券

飛行機に乗る度“死”を思ひしをこのごろやっと諦めを知る

日本へ米国へアルゼンチンへヨーロッパへアジアへただ一つある太陽のもと

朝の陽は私の部屋の入り来る今日は東京の日光浴

想い出の一つ一つに入り込みいつも楽しいいつも幸せ


Copyright (C)2002 Yuri Imaizumi All Rights Reserved. このページに掲載されている短歌・絵画の無断掲載を禁じます。