11月 儚む
カタカゴ・ヤマスゲ・ワスレグサ・ヒメユリ…ユリ料にて私の一世ここにつらなる
人工の明りなくしてただに闇氷河の軋む音聞こえをり
まん円の月の明りの届ききて一万メートル上空飛行機の窓
ゆらゆらとゆらぎをりつつ太陽光太陽の出来こし次第をしのぶ
方角は確かではないまた会はむことのはかなさ心に残し
遠く遠くなを遠く丸き地球を行き行きてセリーナさんと出逢ひしを
バルセロナより来たりし人と共通点スペイン語ありて親しい
スペイン語ポルトガル語に紛るるを異にせざりき長き年月
極端に喜び嘆き哀しむるタンゴのなかにしばらくをりぬ
朝の陽に勝鬨橋を午後の陽は佃大橋を描きてゐたり
ゆらゆらと隅田川の川面にて太陽沈みゆきし次第を
三河湾の磯砂辺りに育ちにき地球の心を通り二万キロブェノスアイレス
父を亡くし母を亡くし残せし書籍に父を探す母を探す
彫りあげし雲中菩薩に千年の木目浮き見ゆ神々し
目覚むれば私そのもの満ち満つる思い出と思い出すこと
10月 なほ遠く
「焦るな」「怒るな」「成張るな」常の心を保ちをりつつ
厚き雲かすかちぎるる所より地球を覗く日本が見ゆる
一億年の寿命といい星昴五千万年を過ぎたることよ
ほんのりと明るみきたり安堵していま再びの眠りに入りぬ
遠く遠く行くかのごとき心して山の手線の五駅ばかりを
地球なる半周よりもなほ遠く遠くへ遠くへゆきにしことよ
はるばるとはるばると行きにけりパタゴニア大地地果つるところ
高野山宿坊に目覚めしことありき蓮の花は金に咲きをり
五億年いとも容易く三葉虫化石と堅くなりたることよ
ほんのりと表面張力零さぬように神酒は神の御前に
稲妻の形してをり紙垂真白ここよりか神神様の域
飛行機のエンジン音を同化してはるばるきたりぬパタゴニア大地
父を亡くしぬ母も亡くしぬひとりきり幾多の本を残し下さり
過ぎゆきし千年の見ゆる神々し木目は雲中菩薩に至る
ひと夏をおほきく栄へしカラスウリまた来年の真白き花を
9月 エッフェル塔
生きゆけるリズムに短歌のリズムを添えてこのままこのまま
人として自然のままのそけままに安らかにをり穏やかに過ぐ
勝ち負けの時限にをりしことはない自身の好みのそのままに
お父さんお母さん共に過せし日々のまま私の基礎の確かなるべし
直毛の私の髪にほんのりとまろみをつけて下さる美容師
満員御礼の垂れ幕のもと集ひたる人々多くありてなりたつ
皆んな皆負けないようにと見てをりぬ力士の世界に勝負あり
勝つために大き姿になりたることを相撲を描かむ目論見もてり
みんなみな負けないようにと見てをりぬ力士の世界に勝負あり
勝つために太く大きくなりたるを相撲を描かむもくろみはたさず
あのこともこのことも心の内に隅田川花火大会生中継中
遠花火近くの花火一つ画面に皆治まりぬこの大ひなる空間
フランスにエッフェルさんのをられしを今しみじみとエッフェル塔
右側と左側と全体側と支え合ひつつバランス整ふエッフェル塔
どの角度の景色の中にもエッフェル塔美しくあり頼もしくあり
8月 37兆個の細胞
自らの37兆個の細胞の一つ一つにエールをおくる
湯気たつる“ご飯”に花山椒を振りかけてさあ大丈夫私の食事
四輪の車を埋むるほどの反古こんなことをしていて良いか
はっきりと暗黒物質のことわからない反応をせずあるのだといふ
王と神と一体化宗教寺院アンコールワットを歩いてゐるよ
押入れを開けるといっぱい出てくる10年間にしてゐたことが
小さな風にはビクッともしない辛夷の新芽い出来しことを
卒直に思いを志望を折り重ねリズムを持ちて短歌となりね
一本の長い長い水平線地球のまろみを空の白雲海の白波
二ュートリノといふを心にもちをりぬただそのままにすぎてゆくゆく
デコポンと生姜とカモミールとを食として今日の日も心静かに
ヒトリシズカとフタリシズカとそれぞれにセンリョウ科センリョウ属の花咲きて
今朝のこと小雨は28分後に15分間降るでしょうと
太陽光を照り返すものの無く宇由空間は暗いというを
半夏生片白草と名をもちて夏至のこのごろ白花と咲く
7月 本当のことばかり
自の心のままに生きてをり今日の一日も基本のままに
地球地下10キロメートル地点にて今朝の地震の源ありと
地球なる半径は6378キロメートル内部に何があったのだろう
スコップもて地球の地下へ掘りゆく様を思ひ描きて疲れをり
地表より10キロメートル内部にて地球にいったい何起りしか
タンザニア北部キリマンジャロの地下を通って湧きだした水に育ちしコーヒー飲まむ
太陽と月と同じ原理にて赤く光れるスパイダー放電といふを
縁側に満ち満つ今日の日向ぼっこ四十六億年たちたることよ
地球は主に岩石と金属鉄で出来ていると今読みつづく本によると
地球誕生のもっとも古い四四億四〇〇万年前のことを
カナダにて見つけられし石にして約四二億八〇〇〇万年前のもの
沖縄の磯に見つけし「星の砂」有孔虫やココリスなどの殻所有
「古細菌」「真生細菌」(バクテリア)「真核生物」(コーカリア)目に見えぬもの
恵比寿なる昔のままの細道と宙を飛ぶような高速道と
定めたる目標の場所には行き着かぬそれでもなんとか恵比寿道
6月 紫 草
紫草の生え立つ鉢をひっくり返し泥んこ根っこを教えたまう文明先生
根っこより紫色を染むること笣腋に一輪づつの白い花
紫草の生ふる標野に幾代を継ぎこしことよ今を失う
古来紫根エキスの薬効は利尿解熱切傷火傷
絶滅は近くしならむ紫草憧れ深く我身に仕舞ふ
白い花七つ八つ咲きにけり紫草に白い花咲く
気兼ねなく分厚い本にのめり込む天気予報は嵐とぞ
石も木もほろびすたれて過去となり過去を探して今日の雨の日
もともとは何も無かったと宇宙そんな説も無かったかも
父と母との大切は私の大切イチイ科イチイ属アララギ親し
アララギのその実は熟し赤くあり種子には毒をタキシン含む
アララギの木下に寄りて背のびして赤実を摘む食みにしことも
イチイ科イチイ属雌雄異株常緑高木葉は線形実は透き通る赤
イチイ木に別名あり、アララギ、オンコ、キャラボク、サクノキ
アララギの木材にして伽羅木の香る仁徳天皇の正一位笏となり
5月 居心地
夕刻のハドソン川に添ひゆきぬアートスタジオ・クロッキークラス
沈みゆく太陽に向かひひた走るオレンジカウンティ・アートスタジオへ
日本風ではないモデルさん自分自身の集中度良し
夕焼と街のあかりとごちゃまぜのそのなかにゐる居心地を
クロッキーブックと私は日本製モデルとスタジオはオレンジカウントリー
今は昔昔のままのスタジオのそのままにしてオレンジカウントリー
続きこし沢山の日々のその内に我身を戻すクロッキータイム
裏表散りくるものはその淡き桜古木に咲きそめし花
何事が起りしことか源氏物語読みつぎてゐるこの時を
千年を読み継がるると源氏物語なぜなのでしょうか
ほんのりと桜の花の花影に父がをります母もをります
冬枯れの枝々見あげ待ちわびて今日は桜の花吹雪
太陽のほど良きことよやさしかり月のアシストハビダブルゾーン
一呼吸毎に地球の暮れてゆくしっかり地球にとどまりをらむ
朝の陽は水平線より登り来し朝のめぐりを夕に導く
4月 飛 行
音無しく飛行機の内にゐることよ丸き地球の一万メートル上空
点滅のライトがせわしい今飛びたたむロスアンゼルスに向けて
マイアミの飛行場へ向き飛行中マイアミのこと沢山思ひつつ
万感の真白き雲の中に入る真白き雲のただ白の中
白雲を抜け出づ雲の上に出る一番星のかがやきに会ひ
欠けるなしまん丸お月様は右肩にずっとずっとご一緒中
マイナス五十一度の外気温まん丸お月様とご一緒中
もし窓がこわれたらたちまち冷凍人間寒いだろう一瞬は
右肩に離れるでなしお月様九二八kmご一緒下さい
アメリカ合衆国フロリダ半島ロスアンゼルス太平洋上とんでとんで羽田飛行場
世界地図に鉛筆もて一本の線を引くか弱き線の終着地まで
あと928qの飛行にて早朝5時の羽田空港に着くことよ
地球にて朝の太陽光を浴びてゐる生きて地球にまたゐることを
世界地図に通過してこしところを印し親しくなりぬ地球のことの
朝も昼も夜もごちゃまぜにしてをりしこと地球の朝にしっかり立てり
3月 マイアミサニーアイレス
二ヶ月を留守にする家鍵掛ける私の気配守らむとする
スーツケースに万葉の歌四千五百一六首いざ出発
日本に帰り来たりて住みつきてまたい出ゆかむを思ひつきたり
大西洋の波打つことよ眠らむと波高き音聞く
波の音まくら辺にあり時々激しい時々やさしい
幾重にも重なり連なる波のあり今日は大西洋サニーアイルスビーチにて
大いなる大西洋の磯辺にてはるか彼方の水平線を
幾しづく大西洋の海の水すくいあげたりおおいなるロマンを
大西洋波打つ磯辺にて何処まで何を見ていることか
星幾つ残りてをり闇のごとこんなに暗い所にゐるよ
昼間見しことごとを思い起こしをりこんなまっ暗に明かりともさず
おほらかにおほらかにポーズするモデルを描く今日の幸せ
ハイウェイを三十分ほど突っ走りマイアミ・クロッキータイムに間に合ふ
ズブズブと磯砂ふみ分けサニーアイランドまず砂のありてなりたつ
群なして磯砂にいる鳥達の飛び発つはなし鳥と人と共存ビーチ
2月 クロッキー
6Bの鉛筆の芯を太く丸くいまし始むる人間の姿クロッキータイム
もう少し残るばかりの私の寿命やうやく気付きぬこの頃のこと
養生をすれば人間は百歳までは生きられるとカロチン・ビタミンCを加へて
人参のカロチン食むを楽しみぬ抗酸化作用細菌抵抗作用
人の脳細胞は約一四〇億個沢山残っていることとする
一つ日に三十粒の大豆を食めよ大豆サポニン私を守る
地球なる位置情報の画像よりニューヨークに玉由マイアミに由野
若返りをもたらすといふ胡麻アフリカサバンナより縄文期に渡来
体内の老化物を洗い流し老化を防ぐ血流向上の水
十両を薮柑子百両を唐橘千両万両朱実赤実の究極の赤
川の水と海の水と相ひ会ふことよ地球出来こし歴史を込めて
うっすらと汗をかく程の運動もなかなかしない冬日の日々を
父よ母よ受け継ぐ「三河アララギ」よ思い出ぎっしり未来へ誘う
都会道の片隅のムラサキシキブのピンクの実ムラサキシキブの紫の実
心地よく住みをり恵比寿の中空に見上げてここは飛行機の道
1月 地球にて
さりげなくおとなしくしてゐる日々あのことこのこと気付きはじむ
自らの判断をするその日まで母の限りを共有しよう
自らを自ら守る自分の心やさしくあれ安全にあれ
私の知らないことに向かひゆく我子等が居て地球いとしい
自の居る環境に適応し静かに静かに静かに居ます
私と同じ心が三つあるそれぞれ何処にありてもいとしい
歩き始めの幼子二人私の後に続くフロリダ半島ケネディ宇宙センター
雲に入る海を見下ろす長き長き飛行中の時をまた過しをり
地球儀を見ているような地球儀をくるくる回しているような
どうしても縫いぐるみのプーを離さない二才の玉由プーさんの足となる
真地球を幾十回も回りしことよアルゼンチン日本四万キロの航空券
飛行機に乗る度“死”を思ひしをこのごろやっと諦めを知る
日本へ米国へアルゼンチンへヨーロッパへアジアへただ一つある太陽のもと
朝の陽は私の部屋の入り来る今日は東京の日光浴
想い出の一つ一つに入り込みいつも楽しいいつも幸せ
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