12月 小紫式部
ぬくぬくの陽だまり電車にうとうとと高尾山に登らむとする
残りをりノハラアザミの最後花アサギマダラは静かに止まり
紅葉するテニナルモミジのその透き間ポツポツみゆる淡き青空
ブナの木のやさしい緑の下にきて頬張る頬張る大きおむすび
ブナの木とイヌブナの木と並びゐるイヌと名付きしそのことはりを
登りゆき下り来たりぬ五九九メートル筋肉痛は脹ら脛に
少しづつやはらぎきたり筋肉痛明後日に消えゆく予測
夕顔の蕾ほぐるる夕っ方誰に告げやふこの真っ白を
緑葉とチリチリ枯れ葉と朱の実とウリ坊もあり蔓カラスウリ
紫は小紫式部の紫よコロコロコロと床をコロコロ
カラスウリ
ヒマラヤに海の記憶の残る石かさねてゆかむ今の出来事
空高く七日の月の見え初むるいまだおとさぬわたしの影を
色付ける蜜柑の木下に小さくあり紀伊国屋文左衛門石文
石碑となりし手の形足の形巨きかった江戸の横綱
明日には引き払はるる故にして招かれて来し今日カラスウリ
ひと夏をおほきく栄えしカラスウリまた来る年の真白き花を
今日の日の命の糧と固くかむ磯のなまこの酢漬けのものを
一枚の葉っぱを土に挿してよりごろごろと芋今日の収穫
香りきて香りの粒子の中をゆく何処から来しか何処までつづく
11月 36℃
太陽の光の反射満月のまどか光を抱きてゐたり
朝あした門燈灯し来し家に帰りかゆかむ幾許晩し
40℃の水の温度のほのぼのと今日の一日の最後のシャワー
80℃少し熱めに立ててをり抹茶のかほりかほりたちくる
音たてて100℃に沸騰中バラの蕾のハーブティに注ぎ
遠い遠い星星よりも今日の日はひとりのひとの36℃
実となれぬゴーヤの花の黄の花ポロポロこぼるこぼるる止まず
ちりちりと枯れて縮むる葡萄の葉一片落ちて今日よりは秋
あたたかき心になりて見てをりぬ色付き初むる弓張山脈
たらちねの母の体温伝ひつつ共に見てゐき石巻山を
10月 Bファクトリー
秋の日のなほなほ暑き陽のなかを目指しゆきゆくBファクトリー
天然の球の形の球にして毬栗みどり棘棘みどり
みんなみへ渡りか行けるその頃よつくばで出会ひぬアサギマダラに
ほのぼのとアサギマダラの浅葱色陽電子の向きに向きゆく
未知といふことのひとつは解きゆかむ電子と陽電子と衝突の場所
わからないことが沢山あるゆえに毀さむといふ電子と陽電子と
放射能注意記号は意識して最先端を導く装置
はじまりのはじまりしことか右の手に感じられをり磁力の反発
夕闇はいまだきたらぬ地球にて闇の宇宙に思ひを馳せる
天高く平面にありきオリオン星座今日よりはみる深き奥行き
カリフォルニアをドライブせしこと38万キロ月までゆける距離かと想ふ
私の車の走行距離なりき月までゆける38万キロ
いまごろは目覚めてゐるか眠れるか真夜の白夜の太陽のもと
小望月
地球とふ水色惑星意識して今日の一日の滞りなし
ひと花にひと花ごとに立ち止まり黄花コスモス咲いている道
ブラインド明けて今日は七日月小望月までは見えないところ
ひとつ屋根ひとりをりつつ我儘に日々我儘になりまさりゆく
同じ向き向きてをりたり地平までひまはり畑のひまはりの花
咲いてゐるばかりではないひまはりの油を少し今日のサラダに
しばらくはアサギマダラに近くゐるひらひらと来てまた草にゆき
9月 ニュートリノ
菩提樹の円ら実おほきさ少し増しおほきさほどの時の過ぎしを
しろじろと上弦の月は左肩帰り行く道あともうすこし
人間の時間の単位と思はざりこともなく言ふ一三七億年
千早振神に頼りぬ結論は私の法を越ゆることごと
液体と気体と固体と特質を持ちをり水の温かき白湯
太陽の燃え尽きるとふこと次第うべなひゐたり七月吉日
千億の星星集ひ渦巻くと見上げてゐたり天の川銀河
ブナの木の木もれ日まろくまろくして大地にどっさり太陽のまる
こもれびのまろまろゆるるゆれゆるる太陽のまる大地にゆるる
孤独では無い気のしてをりここかしこニュートリノの降り注ぐとふ
今日幾つわたしを透りゆきしかとニュートリノの気配ひを追ひて
目に見えぬ凡そさえも朧朧それでも確かに存在すると
暗黒の宇宙に浮かぶ水色の地球にありてうろうろとただ
無限とも過ぎこし過ぎゆく時空の真中生きていますよ楽しいですよ
夕闇に星星赤く青白く核融合の反応の色
ニガウリの黄色の花も加はりて立ち話はしばらく続き
夕闇はゆっくりきたり七月の七日の満月あかるみはじむ
ヒマラヤの氷河の一滴一滴のガンジス河となりてゆく音
8月 天辺
阿倍川を大井川を天竜を越えて近づくあなたのもとに
静もれるあなたの家の傍らにジャガイモの花天辺に咲き
もふ会えぬかもしれない出でゆきに父を託しぬ母を託しぬ
ひとことに学びのありきひとことに従ひきたりひとこと終る
過ぎ行きし人を偲びて集ひをりひとひと同じ心になりて
一つ知る二つ知る知りはじむ次第次第に至らむ謙虚
完全に未知でありしは昨日まで今日は向かへりひとつの未知に
返り花幾つ咲きをり合歓の木の角を曲がりぬあとは真っ直ぐ
この夏をどこまで昇るニガウリの成り花小さい小さく黄色
目覚めてはまたとろとろと眠り継ぐ蘇らむよ明けゆくまでに
すぎゆきしあなたとあなたとあなたたちと心に有りて暫く生きる
7月 恐竜
地球なる歴史を確かにものがたりティタノサウルス化石に寄りぬ
爬虫類大地のトカゲと学名を巨大恐竜骨格化石
幾世代繋ぎしことか変化せしか大地のトカゲのゴンドワナ大陸
地球なる大地をのしたことだろう大腿骨よ上腕骨よ
マプサウルスの埋もれをりしその上を歩みしことをパタゴニア大地
こんなにも石と化したるカルシューム残しゆきたりマプサウルスは
恐竜の大腿骨に伝いゆく私の指の私の体温
自らは真中にをりぬ広ごるる宇宙の未来太古の化石
生物の死して残せる石油より水高価なりきネウケン州は
ジャノヒゲの中に有りたりトカゲの卵温められし気配なかりき
あまりにも古き代のあり繋ぎこし今の命のいといとほしい
6月 みかんの花
緑濃きみかんの葉群にいだかれて蕾の白と五弁の白と
真っ白なみかんの花のはちみつのひと匙ごとの明けゆく朝な
口腔に残るにほひのほのほのとみかんの白い花のはちみつ
地を覆ひ空気を染むる真黄色の菜の花畑の花粉にまみれ
括られて八百屋にありし蕗の葉を戻さむとする元の丸さに
フランスでスケッチせしはマロニエと日本で描きしは栃の木と言ひ
新月より一日一日の月もよふわがこととして月を観る日々
天と地と137億年の後見つけいだしぬひとりのひとを
命を
始めなく終りもなく永劫の宇宙といふに今日の命を
ほどほどの心地にをりぬ外は雨嵐になると予報の聞こゆ
きのうより大きさ増しぬ欅若葉あすは強さの加はるだらう
鋭かり花を守れるトゲトゲの棘取り除かれて薔薇の花咲く
原産は有史以前のインドとか長茄子水茄子スケッチしてゐる
つやつやの千両茄子のつやつやの茄子紺色に留まるしばし
抗菌と保温効果と美味しさとひねたる生姜すりおろしをり
切りゆけりどこもどこも子規居士の顔食しはしない金太郎飴
暮れゆける暮れの暗さに反比例白さえざえとどくだみの花
5月 0と∞と
何時の世に如何なる出来事起こりしかこの膨大な地球の水を
ま向かへる大西洋の海原の太平洋と異なる匂ひ
地球なるハリケーンに逆らひて白砂の上の私の家
天翔ける心地に観ゆる映像は水色をしてまんまる地球
水色の地球の上に伸びてこし一本つくし二本目つくし
一日の十五時間は留守にする家にひと欠けエベレストの石
大きさは0∞の密度とふ宇宙のことにかまけてこのごろ
のびちぢむ時間空間あるという宇宙創世困りて居るよ
何もかも無いということはありえない真空さえも何も無くない
空間も時間さえも無かりし過去の変化の末の今日の息する
地球上の水分子の総数も数え得るとて有限範囲
4月 彗星
NYより帰りゆく旅一万キロ飛行高度は一万メートル
しっかりと踏みしめてゐる立ちてゐる見下ろし続けし地球の上に
こちらへと向かひ来るよふそんな気の巨き金星めざして行くよ
太陽の光を反射してゐるとおおきい金星あかるい金星
太陽系三番目の地球より二番目金星ながめていたり
太陽より三番目にあり真地球よ今日は歩みぬ六千歩ほど
ひとたびよふたたび会へぬ彗星をしし座の方に見送るひとり
真夜にしてルーリン彗星通過中もふ出会へない出会ひを果たし
ハッブルの望遠鏡の映しだす太陽コロナのゆらぐゆらぎに
無生物化学反応の末にしてすこやかにあり私の鼓動
今もなほシアノバクテリアは繁殖中諾ひゐたる人の始まり
卵とじ
欲張りといふのでは無い自づから大き大空星みつる空
日本は今頃お昼と思ふとき丁度頭上にオリオン星座
昨日より今日が一番新しい137億年の末
富士山がだんだんおおきくなりきたり一番おおきいここでおむすび
おほいなる自然より来しタラに枝どこまで伸ぶる机の上で
ふるさとをひとりゆく道みちくさよ惚けし土筆も残さず摘みぬ
つくづくし晒しはしない土筆味ひとつ卵の卵に綴じて
3月 地球
ただひとつたったひとつを抱きつつ高度1万空を飛びゆく
空と海と分かつところのひとところ明るみ初むる今年のはじむ
白雲を透し一条朝の日のぬくぬくとして私のもと
ぽっかりと浮かぶ白雲その上の高層雲もまだまだ地球
コンピューター・シミュレーションと同じきよ海鳥たちは秩序して飛ぶ
天と海と分けて一筋群青の水平線の向こうはアフリカ
海鳥は群れつつ海を向きをリぬ人間もまた海に向かへり
磯砂にうずもれをりし貝殻よ大西洋の波に濯ぎぬ
空と海とただそれだけの風景の朝は明けゆく夕は闇ゆく
広すぎる宇宙のなかの星ひとつ望遠鏡を向けて近寄す
2月 マンハッタン
悲しくてもの悲しくして一人ゐるナリタエアポート・ターミナル2
シャンパンは五臓六腑にゆきわたりあのことこのこと諦むること
寂しさと嬉しさとを選べざり日本の国を離れゆきゆく
分度器をもて測りをり飛行機の離陸してゆくその上昇を
オポルトの酔ひにほんのりゐたるとき丁度越へゆくロッキー山脈
きらめきはクリスマスですクリスマスニューヨークの上空にゐる
天辺は見えざるままのビルとビルと摩天楼のひとつの窓に
いとほしさつのりきたりぬ足早に五番街の暮れの雑踏
日本国小さな田舎に生ひたちぬ今マンハッタンの人混みのなか
高層のビルの間に間のひとつ窓日は昇りくる日は沈みゆく
雪が降る横向きに吹く渦を巻くはるか下方に大地の見ゆる
人間の居ること拒むごとくしてマンハッタンは華氏十八度
おほひなる地球の過去に近づきぬティラノサウルス大腿骨辺り
何もかもおほきかったその時を高々見あぐ実物化石
1月 東雲
はらはらとカロチノイドの黄葉して裏葉表葉公孫樹の並木
東雲と銘もつ酒となりし水地球の水を今日の一献
朝の日を透す松葉の針葉のプラチナ色に輝ける刻
幸福の木のドラセナの変化して真夜に花咲く香りを放つ
ひとつ家満たして香るこの香り幸福の木に幸福の花
天辺に小さくなりぬ満月の十六夜月となりゆくところ
ニュートンの決めしこととて虹の色七色に見え百色に見え
太陽のひとすじ光をプリズムに数へていゐたり百の色合ひ
ま昼間の空の青さのそのままのそのまま暗い真夜の青空
青色の散乱してゐる今日の空良いお天気と挨拶交はし
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