2010年 短歌

12月  地球

いきいきとキラキラとして水色の地球に私の明りをともす

生物の造りし空気に覆わるる宇宙でたったひとつの地球

あと幾つゼロ が足らぬか実測に地球の上の太陽系ウォーキング

日常は棚に上げおくひねもすを天文学的数字に遊ぶ

白色の五弁の花に風ありき今日生け垣の黄のカラタチ

まどかなる月の光を両の手に一・三秒過去の月光

1・3秒過去となりし月光の次の光の次の光の

1秒に3億メートルゆくといふ越えゆくはなく光の速度

太陽の核融合の産物のニュートリノが通過してゐる

私を通過してゆきそしてどこニュートリノはどこまでゆくの


稲妻

山手線の車内に巣を張りゆらゆらと素っ頓狂な蜘蛛と乗りあふ

また一度温度を上げむ朝シャワージェツト気流の下りて来ぬらし

人間の目にみえぬものを見てをりぬオリオン大青雲極彩色

稲刈りの済し田んぼに再びの緑はなびく緑ひこばえ

稲妻に感光せしかこのお米ふつくらつやつや炊き上がりたり

極小の分子になりすましをりマウスの脳へ脳へ分け入る

秋葉原の人混みのなか吾を呼ぶ携帯電話はニューヨークより

ナノという単位を求め乗りをりぬつくばエキスプレス区間快速


11月  命

満月のいづる辺りかほのぼのと白みきたりぬしばし待ち待つ

墨と水と無彩たゆたひ出来あがる私好みのスモークグレイ

アンデスの山の化石のコーラルピンク太古の海に起りしことを

海を越え運ばれきたるウルトラマリン蛇の髭の実の瑠璃色を塗り

右肩に十日余りの月ありき月明り消しプレイボール

東京の大き星空求め来ぬ夜を隠するナイター照明

天上にこと座のベガの見ゆるはず皓皓としてナイター照明

雨脚の時折強し夕まぐれ目的のあり目的に出ず

電線の細細き影伝ひゆく秋となりゆく命のままに

ふつふつと沸騰たかしマグに注ぐ家にしあれば伊勢の御塩湯


酒星

エレベーターに昇りゆきたり五階まで同じき位置にシラビソ球果

新しき枝に雌花の咲くといふ去年の枝に雄花シラビソ

黒岳に真白白雪降るといふ今日東京の暑き暑き日

ほんのりと開きはじむるズッキーニその花を食むしゃぶしゃぶとして

大理石に白く冷たく坐るときフランス語の聞こえてきたり

年古りしオリーブの木の大き影ルノワールへの想ひにゐたり

平城宮十二の門の一つ門朱雀門より赤曼珠華

をとこをみな恋のうたなどかはせりとくぐりかゆかむ朱雀門

酒星を今宵の空にいだきつつ飲まむと決むるあつあつき白湯


10月  五七五七七

日毎日毎五十の花を咲き継ぎき私に芽生へしひと草あざみ

花守の最後の花と守りきぬ薊の種の風にのるまで

今日もみゆ一番近い距離の星一番大きく宵の明星

自の命のことのあと少し算段のしつつあのことこのこと

どうしても黙しをれなきことにして戦争はいや「一本の鉛筆」

地球なる大気に突入するときを彗星のチリ光りを放つ

カシオペアとペルセウス座とを先ず探し見付けむとする流星ひとつ

彗星のこぼしゆきたりチリ数多地球の空に星は流るる

割り切れぬ素数の故にほのぼのと余韻のありて五七五七七

日本語とタミル語とのリズムにて五七五七七短歌に親し


9月  ホモ・サピエンス

残業をしてゐるやうに机に向かふ水の分子の模式図遊び

おほむねを水とたんぱく質に出来てゐる私の頭で考え考え

平均といふに馴染まず生きてゐる特別気負ふことはなきまま

じゃがいもの芽がでる葉がでる花が咲く光合成のデンプン実る

太陽の光と水と二酸化炭素と光合成のじゃがいも食す

光合成されゐるだろう取り急ぎ梅雨の晴れ間の野菜畑

自己消化され足となる手となりぬおたまじゃくしの尻尾の行方

梅雨の雨降り止まずして豪雨なし地球の海のなりたち偲ぶ

苞も茎も葉にも鋭き棘をして薊の花は高々と咲き

人参を千六本に刻みをり指先弾くる太陽エネルギー

花と咲き幼実となりホロホロと柿の木下のジューンドロップ

ひとつ夜を水に浸せり黒き種あさがほとして芽生ゆるはいつ

山アジサイ額アジサイに紛れ生ふお釈迦様の甘茶幼木

金星は大きく大きく輝けり四千万キロを来たりし光

集団で生きのびてこしホモ・サピエンスたったひとりで月をみてゐる


8月  じゃがいもの花

ほろほろとほのかに紫ほろほろと天辺にありじゃがいもの花

いかなりしことの次第か棘棘の草生え出でて丈なす日毎

実感はともなはずとも光速の一秒ごとの三十万キロ

伝へたきことは数多に抱きゐつ一歩一歩は大恩寺山

比較的ありふれゐると炭素化合物に出来あがりゐるまるごと私

すんなりとしなやかであり今年竹根方に幾枚皮を残して

山なみを尽くし濃緑杉の色杉の木ばかり一日の旅は

じゃがいもの花咲く畑に身を寄せて通しやりをり対抗車輌

道の辺に八重咲き十薬見つけたり遺伝子組み替へされたのかしら

満月に地球の影の映りゐる含まれをらむ私の影も


7月  金星

一億五千万キロを来しといふ今朝の光りを諸手に受ける

太陽の光りの圧力帆にうけて宇宙ヨットに永遠ありと

銀河系二千億個の星星のそのひとつ星地球にゐるよ

太陽系地球にもっとも近い星宵の明星めざして歩む

金星の光りの淡き淡き影伴ひをらむ私の影

「ゆうづつ」と清少納言は呼びたりき宵の明星輝き初むる

戦いは歴史となりぬ静もりぬ能仁寺に宵の明星

硫酸と二酸化炭素に覆はる宵の明星清く輝やき

目に見えず僅かばかりの質量のニュートリノといつも一緒


6月  アーティチョーク

どこまでもアーティチョークの畑畑畑の中をサンフランシスコ

いまはまだ花開く前の花蕾アーティチョークの花托を食す

茄子の苗植えゐるところと聞こえこし夕餉に茄子を求むる三個

父母の居ます極楽見届けた車窓に一瞬菩提寺甍

大阪へ大阪へと急ぎゐるニューヨークの子の大阪に着く

山波の伊吹の山の山裾に湧きいできたり真白白雲

めちゃめちゃに光が散乱していると雲のなかのただただ白い

一秒に十兆個私を通過するニュートリノと今日も一日

一秒に十兆通過すニュートリノわが身に起こりしことを知らざり

極楽へ行き着くための計算をしてゐつ午後のオフィスに

いとしさに満ち充ちてこし自らの胸の鼓動を数へてゐたり

太陽系三番目にして岩石の惑星にあり私の住所


けものみち

清浄の明潔の日にして麗しく武者人形に正座してゐる

平安の世に連なる心地して招かれ来し端午の節句

容易には枝より離れぬ柏葉に包まれている湯気たつる餅

紫と淡紫と白色とミヤコワスレは花束になり

荒荒の岩壁に座し羅漢様十六体の教へ一六

奥武蔵若葉青葉のそよそよと辿りゆく道けものの道を


5月  4D(四次元)

あかあかと水平線より昇りこし朝の光のあかきゆらめき

いつのいつ大海原となりしかとこの膨大な水に尋ぬる

雲間より漏れこぼれこし光線のその透明の太さの見ゆる

一本の桜に足れりやすらかに私の桜と決めたる桜

青空に曇りの空に降る雨に移り移ろふ桜の色は

花散らす雨は大降り嵐なし花びらひとつガラスに残る

一三七億年の過去へ立ち向かふ四次元を見むメガネを掛けて

実際に観測されてゐる宇宙土星の輪っぱに模擬近寄るよ

計算はどんどんなされ模擬遊泳宇宙の果てに辿り着きたり

あっけなく宇宙の果ては存在しまだまだ向かうのきっと有る


4月  我が儘

天と地と交はるところ粛粛とひとり行く道枯れ草の道

毎日の景色のなかに今朝の朝ま白く咲きぬ白梅の花

今朝早く目覚めて知りぬ一輪の梅花の白し自然の白し

人間の私の心を去りゆかぬこの寂しさは大事にしやう

目を閉じて見るを拒みき哀しみの哀しさ残るいついつまでも

夕暮る燻しの色に夕暮る真白梅花の白際立ちて

五番目に生まれしことの証にて小さき雛私の雛

着るといふ持つといふこと無きままにことさら好む仙翁の色

サッシュ窓閉じ世の音を遮断して私の気配ただそれだけの

言葉あり心のなかの自らと心のなかの言葉を交はし

せつせつとひとつ心のせつせつと寂しさという言葉を増やし

いちばんの我が儘かとも頑なに今日の心を語りはしない


光の線

風速は0の証のいく条か煙立ち立つ富士山汚し

朝の陽は海よりきたりあかあかと光の線を海面に描き

バッサリと刈り込まれたり棒と立つ合歓の木下に暫くは居る

緑濃き大き葉陰に生まれ出でやうやくまろし幼びわの実

どこどこの海に続くの川土手は土筆探してどこどこまでも

昨日来し今日も居りたり明日も来む行く居る帰る日常のあり


3月  四十六億年

人間の創りし明かりの及び来ぬ太平洋上今いるところ

飛行機の小さき窓に頬寄せて四十六億経ちたる地球

今の今見下ろしいるはほんのりと無理なき円み球体地球

日本に新しき年はじまりぬまだ新しくならざりUSA

月の球太陽の球星の球見上ぐる宇宙に球体のあり

目に見ゆる速度に昇りゆく月と一緒にゐたりねむりかゆかむ

まっすぐに朝の光りはまっすぐに水平線より私に来し

摩天楼のビルに明あり暗のあり朝の光りのゆきわたりたり

雪がふる雪がふるふる雪がふる積りゆきゆく私の景色に

カーテンを開くる度に白増せり雪積りゆく私の家に


2月  地球対応

凍てをらむ真白き町にポツポツと灯りはじむる地球にあかり

マンハッタンビル群の中のひとつ窓私のあかりを明るく灯す

降る雪はいつしか雨にかはりをり摩天楼の私の窓

日本への発信音は確かにて地球対応携帯電話

摩天楼のひとつの窓を濡らしつついまだ地面に落ちゆかぬ雨

黒雲が次第次第に降りきたり今描き終へしビルを覆ふよ

何もかも日本と異なる異なりを確認しをりニューヨークにて

目にみゆる一番大きな大きさよほんのりまろみ地球のまろみ

東京とニューヨークと寒かりき今マイアミの冬の熱き陽

太陽は昇りきたりぬ月もまた昇りきたれり大西洋上

満月とオリオン星座と並びゐて二〇一〇年一月一日


一献

轟けるソールのリズムに共鳴しいでくるものは涙と涙と

目にみゆる小さき円の面積の小さな誤差を許せずにゐる

気泡あり黒き小石を拾ひあぐ富士山噴火の名残と決むる

水蒸気と雲と雨との循環の地球の水の今日の一献

落葉樹落葉尽くせし枝枝に小雀のをりかたまりてをり

満月にとてもとても近づきて一万メートル飛行機中

不仕合はせなことは何もなきごとく一万一千メートル高きにをりぬ

自動車はみなこちらに向かひ来るブロードウェイは一方通行

日本からニューヨークに着きし夜は櫛形に切る玉葱人参



新年  流星ダスト

真地球を覆へる大気に発光す流星ダストを待ちて待ち待つ

獅子座なる獅子のたてがみ辺りより今し届きぬ流星ひとつ

地球なる46億年の変動のさざれ石の巌となりて

望の月十六の月立待ち月ひと日ひと日の月に逢ひつつ

曇り空雲動きつつ雲去りぬまどかに円い今日の満月

ひと葉ひと葉同じきもののひとつだに桜紅葉を踏み分け踏みゆく

つづきこし時空を越ゆる繋がるるひとつ言の葉心に入りぬ

流星群のシミュレーションは目裏に午前四時をやすやす眠る

照りもせず曇りもせずこの夜のおぼろおぼろの月影のもと

光合成せぬ生命体の存在のそんなことごと想ふこのごろ


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