2020年 短歌

2月  ハロン湾

五億年の地質にありとハロン湾五十億歳の太陽没む

シリウスのまず輝やきぬハロン湾いまだ夕焼残りをりつつ

夕焼けをしばらく残しゆきにけり明日の朝日と来たらむために

五億年の地質の歴史をもつというハロン湾に一夜をねむる

天国と言ひても良しと思ひつつ生きて見てゐ天国を

自らを半球軸の中心に夜の星々は天球にあり

満天の星々は皆天球上それぞれの距離見えざるままに

明日には満月となる次第にて十四日月と今夜を過す

海の辺に船の明かりのゆれもせずハロン湾の夜過ぎてゆく

少しづつ明けゆく朝を見守りぬその時の間をその時の間を

石灰岩の三千の島々の景観よ地質進化の痕跡見せて

シボシボと梨地のよふに描きたしハロンの海面ひとときシボシボ

左へとゆっくり流れているようなときどき木の葉も混じりてゆきぬ

山盛りの海老の空揚げ熱々と皮ごと尾ごと透明ワイン

船端に寄りて覗きぬハロン湾珊瑚礁見ゆ小魚の見ゆ

1月  仏像彫刻

尊くして最高のものを表はする語源もちをり檜の材を

ヒノキ科ヒノキ属にて常緑の針葉樹なる材より始む

歴史上の人物であり命の尊厳説かるる人を釈迦如来彫る

檜なる角材よりかはじまりぬひと彫りひと彫りひと彫りひと彫り

二千六百年程前の世に思ひを馳せるフィトンチットに安らぎにつつ

一彫り一彫り一彫り毎に香りたつフィトンチットに守られゐたる

一彫りを一彫りづつを無限とも重ぬる重ぬる釈尊に会はむ

釈迦如来像彫りあがる十二月八日あたかも釈迦の臘八会(ろうはちえ)

たおやかに母に似てゐる面持ちに釈迦如来像出来あがる

いつもではない心持ちしてをりぬ釈迦如来像加はる部屋に

綺麗だね綺麗だねと誉めながら桜紅葉の散り敷く道を

ひとりゐる部屋を満たして吟ずるは「自画に題す」漱石忌

権現の山の急坂駆け下りて今日の一日のはじまりてゆく

四百年をここに立たれる地蔵尊今朝の私の「行って参ります」

羽を持つ山百合の種はどこへやら種鞘乾きて直ぐと立ち立つ


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