2023年 短歌

12月  奄美大島

天然と神と人と奄美大島と太古のつづきつづきの中へ

来たり観る奄美大島大き歴史に分け入る出逢ゐつ

黒潮と亜熱帯性高気圧に育くまるるマングローブの森にわけ入る

一二〇〇万年ユーラシア大陸の東端にして共通陸生生物相を確かむ

奄美大島中央部「湯湾岳」「油井岳」亜熱帯照葉樹林の存在尊し

奄美大島南中央部より海域までは役勝河内川となりて流るる

湯湾岳油井岳よりの天の水マングローブの森に至る

トンネルをくぐりてゆけりトンネルの幾つ幾つトンネルを

湯湾岳を望みてゐたり最高峰海域までの亜熱帯見ゆ

はるかはるか太古の自然のつづきつつ神あり人あり奄美大島

いま芽吹くマングローブの幼木も島の自然の時間の中に

天よりの豊かな水は雲霧帯よりマングローブの林へ海へ

海水と淡水と混るマングローブ樹林歩いてゐたり佇みゐたり

尊々我無続ききたりし時の内静かに静かに静かに

親しみき機織り次第も近くにて奄美大島親し愛し

11月  月 桃

ルーペもて花の次第を調べをり花の個性をみつけてうれし

寿戔嗚尊すさのおのみことの尊の由来につらなれる日本人なり私

部屋内に神様おられる紙垂幾条まっ白くして夏目勝弘作

満月にほんの少しは近付けり月光白白飛行機の窓

右肩に南十字星の見え初むる戻りきたりぬアルヘンティナ

五億年石と化したり三葉中今日の私のたなごころ

日本とアルゼンチンとの試合にてラグビーゲームを楽しむでなし

昨日はたちまち今日になりにけり急ぎのことの一つ気がかり

何処より蒸発せしかポッカリとはぐれ白雲ひとつゆく

地球なる半周よりもなほ遠くひたすら行き行く遠くの方へ

碧い大きな空でした如何にいますかあの日の人は

大釜に車輪梅を煮出しゐる田んぼの泥は鉄分含む

月桃の花咲く道をゆきゆきぬ月桃の葉にくるまるる餅

願いあり願い叶へるつもりにて鐘ひとつ突く龍口寺

日本より一万キロを飛行せり日本を発ちし時に追いつく

10月  皇祖神すめろぎの記録

スイレン科蓮の呼名の定まれり熱帯温帯東アジアの原産と

朴の木の大形葉っぱを折り敷きて酒を呑みたるを皇祖神すめろぎの記録

自の心を通すすべからく勝手気ままな性格となる

水牛のフンをころがすフンコロガシ映像をみているついてゆきゆく

ティラノサウルスの体重は5tとぞ生きとし生きる命つらなる

カリブ海の大き自然の映像よ今朝見る地球のひとつところを

海の中魚の最深記録とて8336mスネイクフィッシと名付きをり

強くなるより方法は無かったと三河徳川家康のこと

自の範囲のことではあるけれど始まったから終りとなるまで

旧東海道松の並木の残りゐる古里ありて心寄りゐる

倒れてもまた起きあがるパパイアの木の生命よ果実パパイア

木登りを子パンダに教えゐる母パンダゐて地球成る

薄暗がり東京天空見上げつつ欅枯葉の散り来る散り来る

六十年過ぎにしことを語りあふ東京ど真中ひとつの夜を

ふるさとのことも少しは語り合ふ共通点のあるがうれしい

9月  パタゴニア

一億二〇〇〇万年まえにして首長きアルゼンチノサウルスパタゴニアを闊歩

地平線まろみをおびてパタゴニア一日の太陽今沈みゆく

地平線まで続くカンポ大草原無限の螢の飛び交ふなかを

地球なるパタゴニアの大平原小さく小さな矢尻を拾う

真地球にわきい出こし水にしてシーバス・リーガル・ミズナラの酒

アカニシ貝のパープル腺の紫の明るき発色なぜか悲しい

大草原にてドン・セグンド・ソンブラは口数少ない男でありと

縦横と高さもあり空間に今日の考えごとをまとめる

目に見ゆる円の面積に慣れてをり小さき誤差のあるを知りつつ

朝の陽は細き金の線となり常の景色に耀やき添える

新しく今朝より始む人生に太陽のぼる金色なして

誰彼の命令ではない朝の陽の長く伸びたり私の影

思い出のマテ茶を飲もうボンビリャにマテ茶葉入れる熱とう注ぐ

細心と大胆と自身の心を探しつつ自分の好きな自分をつくる

リカルド・グィラルデス作ドン・セグンド・ソンブラを読んでいました七月の日々

8月  安 心

南半球にてボーッと大きく見えしものアンドロメダ銀河を見たかと思う

ひとすじの光とどきぬ夜は朝に春は夏へと初夏の日

飛行機の窓一万メートル上空にて地球の丸み見下ろしていた

地球なるやさしき丸み心して地球を歩く地球に眠る

宇宙なるひとつ地球の内にしてまだ見ぬものよまだ気付かぬものよ

五七調に念仏を説かれしと親鸞聖人私に仕舞う

自らの思いを信じ自らの描く線をもしっかり信ず

五七調和歌に親しむ一世にて五七のリズムに穏やかにいる

クロッキーブックもてクロッキー肌理きめ細やかな真実を描き

朝顔の花咲く鉢をたずさへて江戸よりつづく朝顔市を

父母の庭内ひとところ年々にして山百合の花

花軸を一つ立てをり一つ咲く一人静と静かにをりぬ

何かしら幸せなことあるらしい今日のモデルの輝やき美し

行きゆきて地球上の遠い国同じ心の人と出逢へり

何もかも共通点のなきままにセリーナさんと安心ありき

7月  クロッキー

幾度か始めのありきまた始むイーゼル立てて裸婦クロッキー

今日よりは玉由と共にイーゼルを並べて描く人の姿を

回想す始めしは東京そしてブェノスアイレスカリフォルニアNYそしてまた東京

夕刻の恵比寿の町のひとところアトリエのあり裸婦のクロッキー

6Bの鉛筆よりいづる線にして大胆であり強烈でありそしてやさしい

6Bの鉛筆の芯をしつらえて自分好みのクロッキータイム

クロッキーブックどんどんどんどん溜りゆく捨てられないもの増える

もっと上手に描きたい!そんな思いはたちまち消ゆる

何事の思考も消えてひたすらに6B鉛筆線の勢い

それぞれの見ゆる姿よ心の内よ本当のことのみ伝ひきたる

太陽より毎秒10兆個のニュートリノ素通りをしているらしい

地球より月までの約38万キロそんな距離かと月をながめる

太陽は地球より109倍大きいと太陽光にて日光浴

初夏の光のなかにおとなしく自分自身でありたく思う

ヒマラヤの山麓にしてダージリン今朝の紅茶の一杯は

6月  地球にて

参拝は日没までとぞ知らさるる東福寺光明院に入る

室町の世に来しことよ静静と光明院摩利支尊天

現世と極楽浄土を隔つるは水の河あり火の河のあり

同じ個所何度目かと読みかえす身につかぬこと身につなぬまま

ラスゴーの洞窟の牛の絵の三万年前に描きし人を

南極に近くありたりパタゴニア古人刻みし石の矢尻を拾ふ

生きてゐる地球の上に地球のままにほんの少しのことだけ知りて

竹のこと速く成長するためにしなって折れな節の存在

始まりがあったのだから終りもきっと太陽系の地球のことよ

月面に六十年前の人類の足跡残っているだろうおだやかな月

南極にて恐竜化石の発見が二足歩行のティラノサウルス似

強くなる他に方法は無きものとどんどん強くなりてゆきゆく

人間の神経ネットワークの長し長し地球4周分とのことと

祖父母との父母との折々に親鸞上人のお教え思ほふ

「一即(すなわち)十」一が単一性十は無限親鸞聖人京都に生まるる

5月  宇宙空間

えぐみ苦味押え育ててをりますと但し書あり今日の小松菜

要冷蔵ダンボールの届きたり何も食べたくないと思う日

事前調理は途中で止めありと案内調理方法にて召しあがれ

極熱燗酒に泡のいでる時焼きひれ取り出しいただきます

北米とオーストラリアとカナダより集められたりグラノーラ食む

何国の何をひと口食みゐるか今朝の私のグラノーラ好き

火の球であったといふ真地球を見下ろしてゐる飛行機の窓

岩でできた惑星地球を見下ろして父母の国へ飛行中

太陽系三番目の惑星の地球に長く住んでおります

人間の身体の60〜70%は水分と私はハイビスカス茶の成分多し

どうしても考えられないことにして光速30万qといふ速さ

じっとしてみてもじっとしてゐなくても住んでいる地球は時速10万q

月までの距離の38万q私のフリーウェイ走行距離の38万q

真地球はハビダブルゾーンにしてやすらかにゐます私

太陽と共に生まれし真地球は太陽と共に死にゆくといふ

4月  スケッチブック

物質は温度により個体液体気体プラズマ変化をすると

見ゆる星見えざる星々宇宙の星と同じ素質をもつと人間

一四六億個の脳細胞を持つ人間一個なりとも減らさぬように

未使用のスケッチブックも並べあり私の本棚進展止む

どこまでもどこまでも出掛けゆきスケッチブックに残ることごと

人体美学と人の姿を描きこしその美しさを心にとどむ

厳寒の奥伊吹山系の伏流水「勝利の酒」をいただきしこと

はるかなり加藤清正公の「勝利の酒」を大谷投手投球中

これ以上美しきことを知らず大谷投手の投球フォーム

マメ科なる蘇枋木の色素にて母の好みの紅紫の着物

染井吉野の桜の花の咲き初むるありがとうの心満ち満つ

「ひとりしづか」の花咲きゐでるひとり静かに見てゐる静かさ

瑠璃子姉の住みをりき恵比寿にて遅すぎたこと取り返せない

風景をスケッチをクロッキーを描きしページの端々に落書

応神天皇の百済より「論語」「千字文」漢字伝来はじめ

3月  植物図鑑

亜熱帯照葉樹の森にゐる火の玉だった地球の今を

生涯の最後の絵を描くために「生きている」と田中一村

深緑の緑の中に時々は赤きホルトの古葉を見つつ

パパイア・デ・アマソーナと呼びをりき南米原産パパイアは奄美に栄える

ムーチーの日餅を包むはショウガ科ミョウガ属ゲットウ月桃の葉

二メートル程あり大葉を幹先に黄金の剛毛恐竜とヒカゲヘゴ

木性のシダでありヒカゲヘゴ亜熱帯奄美大島大昔のつづく

雄株と雌株とソテツ科にて実ではなくして毒もてるたね

樹皮と根にタンニンを含むシャリンバイ芭蕉布大島紬の染料であり

十両は薮柑子百両は唐橘千両は千両万両もまた万両

はるかはるか太古に始まる命の歴史今日の私の命を加へ

日本列島を伝ひ来たりとアサギマダラ奄美大島にて出逢ひしことを

熱湯にほぐれゆくゆくハイビスカス茶濃き濃き紅に我身を染むる

雪積る日もありといふ常夏の奄美大島宝の島よ

走りゆく車の窓より驚けり茂る緑に紅葉混じえてホルトノキ

2月  旅ゆく

旅ゆくといふ出立いでたちの整ひて地球を覆ふ大空を向く

祖父祖母の庭より見上げし天の川私の心の原点のまま

一万メートルに少し足らざる飛行中ほのかに丸く地球見下ろす

車輪梅の煮出し汁テーム木のタンニン酸泥の鉄分赤褐色に染まりゆく

米粉に薩摩芋を擦り入れて発酵促す“神酒”となる

スケッチをしておられしことを“田中一村”私も描かむ奄美の石を

黒潮の流れの中に奄美島ここに有り有る確かなことの

海の果て海の底辺楽土の話水平線の彼方より来し

二万五千年前旧石器時代の遺跡発見貝の装飾獅子の抽象

太平洋と東シナ海とに囲まれてアダン・ヒカゲヘゴ・クワズイモ

図鑑もて一本一本照らしゆくマングローブ林の構成樹種を

父母の庭にノボタンの花咲きをりき奄美島の紅紫の花に寄る

海風は強く強くハゼノキに果実は木蝋の原料になる

無患子むくろじのサポニンにて洗ふ大島紬洗ひ洗ひて出来上りゆく

玉串と神事に要するアマミヒサカキ奄美大島固有種にして

1月  奄美大島へ

太平洋と東シナ海の内にして亜熱帯独特植物奄美大島

東シナ海と太平洋とをひと目にてマングローブ林に分け入らむとす

「アダン」「ヒカゲヘゴ」「クワズイモ」「サガリバナ」「メヒルギ」「オヒルギ」「モダマ」出合ひつつ居る

常緑のつる性大木螺旋によじれ大いなる豆果「モダマ」なりをり

南南東の風吹きてゐる奄美大島吃驚仰天びっくりぎょうてんあのことこのこと

カジュマルの林に潜りまず出会ふ10センチ程のベビーカジュマル

奄美大島太古の島のいとほしいまろまろとしてほのかに甘い水

奄美なる泥の鉄分とシャリンバイのタンニンにて大島紬を染めあぐること

木性のシダ「ヒカゲヘゴ」は亜熱帯やんばるの森にて近づきゆくよ

今を生きる化石であると木性シダ「ヒカゲヘゴ」黒潮の森へわけ入る

山のしい段々畑の薩摩芋山肌崖地に蘇鉄群生

亜熱帯常緑広葉樹の森と黒潮の海を見下ろす

太古より今に息づく命のことを宇宙の地球の奄美のこと

奄美なる豊潤な水よりの生命はつなぐ私の命加ふる今日は

淡水と海水と混り合い合う汽水域マングローブの群落に入る

昼間でも暗い原生林国の天然記念物特別天然記念物の動物達の住む

世界一巨大なさやを成す「モダマ」マメ科木性つる植物

風強い海岸にありアダンの木「田中一村」絵画きしところ

水平線のかなたより幸せが訪れくる伝説ネリヤカナヤ


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