2013年 短歌

12月  ベニクラゲ

満月を眺めし窓に朝の日の来たりて続く私の続き

揺らしなどしてゐたりしてつりふね草紫の花としばらく遊び

しばらくを共に過ごせりつりふね草奥多摩の土に返して帰る

自らを幸せにせむ決意して赤白万両昨日購ふ

赤万両白万両のふたつ鉢どちらがどちらまだ青き実よ

恐竜の頃にも匂ひを放ちしか公孫樹大木ギンナン実る

台風の雨降りてをり風吹けり雨の素粒子風の素粒子

ぎっしりのフィグス粒子に守られて私の姿のとどこほりなし

永遠に生きゆくことを繰り返すベニのクラゲはプカプカ動く

釣り鐘状赤き消化器透けみえるベニクラゲは三億歳か


11月  お供え物

小角材ヒノキ柾目を彫りすすむ仏足右足現れいづる

自らの右足に似る指長し仏様の足を彫りゆく

霧雨は集ひ育てりひと雫白く咲きたる白萩のうえ

白萩の花につゆありキラキラと私の顔を小さく写す

奥多摩の風にゆらゆら真昼間の星はいでをり白玉星草

夕顔のあまりに白し夕間暮れま白きままに心にとどむ

台風の激しき雨に洗はれし東の窓に淡き満月

百パーセントの丸になりたり八時十三分私の窓の中秋名月

自らをお供え物とまん丸の月に向かへりおとなしくして

来客はお月様にて私の食卓はなやぐ白ワイン添え


10月  西瓜

自らの種を育む手段かと赤きスイカはいとほしく食み

こんなにも内に水分含みゐる西瓜の造形描きてゐたり

幾すじも光は光り流れ星縮小宇宙のプラネタリウム

私の空を狭めて高層のビルは建ち建つ何を思はむ

何処も彼処も山また山のそれぞれの名前もちをり天地山ふところ

深深の緑緑の静寂のフィトンチッドに守られ眠る

八分前太陽い出こし次々光熱く熱く次々届く

自の宇宙感覚正しをり百四十億分の一太陽系ウォーキング

生え初むる茎伸ばしゆく蕾もつウバユリ一世アイホーンにあり

ひと日ひと日一ヶ月のたちしとき完成したり直ぐ立つ蒲の穂


9月  赤玉石

左巻きのアサガオひと鉢加はりてまた続けゆく常の生活

遣唐使のもたらせたりと牽牛花(けんぎゅうか)アサガオとして朝顔の市

夕立のあまり強さに逃げ込みし椎の木下に濡るるぐっしょり

幾億年過ぎたる色か赤色の佐渡赤玉石雨に濡れゐる

池の面(おも)置き石伝ひにポイポイとアメンボーになりたるごとし

それぞれのルーツを垣間覗かせて青石赤石黒石御影石

緑青の屋根の下にてシャリシャリと音たてて食む亀戸大根

奥多摩の山の高きに畑して隠元ピーマン茄子葱とまと

一刀に一刀毎に香りたち檜の柾目彫りすすみゆく

朽ち果てし葉っぱの上つ方ウバユリの花は瑞々咲くよ


8月  和すだれ

朝の日も小鳥の囀り青い空世の中万端和すだれ越しに

いそぎんちゃく岩から離れ逃げてゆくヒトデに追はるるその映像を

居ながらにキリマンジャロの頂上へ海には潜る今日の映像

植ゑられて間もなき稲の田んぼには八海山の全けく映る

大小のマゼラン雲の下方にてうとうとしをりリクライニングシート

漢詩よりいでこしリズムを口ずさむ静かに静かに和歌となりゆく

ひと茎に雄花と雌花と連らなれり天を向きつつやがてガマの穂

青高し群生ガマ原ゆくときは自ずと歌ふ因幡の白兎

千年の時を立ち立つクスの木と交差してゐる私の命

より遠くより深くまでより小さく知らむとしをりつくばに来たり


7月  如何にか

江戸古地図辿りてゆけり東京都新築ビル群昔を無くし

この日頃私の思考に入りきたり如何にか如何にニュートラリーノ

麦の穂を左手に持つ乙女座は麦稔りゆく畑上空

白妙のカタルパの花花咲けりアルゼンチンにて知り初めしこと

古里の空に有りたり北斗七星祖父と辿りき北極星を

二等級に輝やきはじむ木星と金星土星今日の夜空は

月齢は十四にして黄金の月のかかれる私の窓

富士山の噴火せし日の溶岩のゴッゴッひと片テーブルの上

たはやすく新種いでくるバラの花自然に咲いたバラ色恋ほし

年毎の同じ所の山ユリの咲き出づ庭よここに育ちき


6月  チゴユリ

親しみはおほきく増しぬ太陽系水星みゆる金星みゆる

太陽の光は地球に反射して月にとどくと今日の満月

地下茎は続きてゐると地上茎うつむき加減のチゴユリの花

可憐さの形容詞をみな集めひともとひともとチゴユリの花

コナラかなクヌギかしらエゴノキか散り敷く枯葉の山路はひとり

チゴユリもウバユリも咲く里山の今日は芽吹きの萌黄の色に

山路こし息ととのふるひとところチゴユリの花チゴユリの花

新しきことは記憶となりゆかぬひとりのひとと遠き山脈(やまなみ)

白雲の中より地上に降りきたりふはふは霧の町をふはふは

広大な香港空港ウォーキング羽田行を待ち待つ時を


5月  あるがまま

刻まるる月のリズムか正確にひとつ小さく欠伸の出づる

一年に三・八センチづつ遠ざかる今日の三日月鋭く光る

ひとつ目の花綻びぬ桜並木円空仏に会ひにゆく道

あるがまま散りくる桜の花びらのひとひらひとひら描き重ねる

雨はゆき風も吹き止む花曇り今日の集ひは桜木のした

吉宗のはじめし桜の園にしてメール打ちをり桜見に来よ

眼鏡掛け見えはしないニュートラリーノ心の中に見えつつゐたり

おのずから微笑となる私も鉈(なた)とのみとの木っ端仏像

三椏に導かれゆく登りゆく身延山の雲にわけ入る

ただに白雲の中にてただ白を写さむとするシャッターの音


4月  福寿草

鉢ほどの土を所有す真中には光集むる福寿草咲く

太陽の温もり花弁に集めゐる福寿草と日向ぼっこ

日溜まりの満開の花夕刻の花閉ず姿福寿草描く

自を守る反応機敏にて福寿草の根っこ逞し

透き徹る朝の光りにチュンチュンと私も和して雀とをりぬ

南(みんなみ)のしし座の胸のレグルスのやさしく光る春は来にけり

太陽の倍ほど巨き星といふシリウス白し明るく巨き

八時間未来へタイムスリップし真昼間にして今夜の星を

8・6光年前の光りは今とどくシリウスとして私の窓に

鷹峯の葱を焼きをりほっほっと五十年来の友を亡くする


3月  御御御(おみお)付け

花は無し葉っぱも無くして桜木の枝先にあり花芽(かが)と葉芽(ようが)と

あの人もこの人もまた日本中同じ映像見てゐるならむ

オリオン座おおいぬ座とこいぬ座と冬の大三角見ゆる窓辺に

東(ひんがし)に先ず輝やけり木星ははじまりはじまる冬の星座の

九条ねぎ熱海のわかめ祖母の味噌香りたちそむ今朝御御御(おみお)付け

曽祖母を祖母を母を偲ぶ日は千六本のだいこん御御御付け

映像のホーキング博士と語りあふひとりの部屋にふたり居るごと

新しいものへと受け継がれゆくいとほしくして私の命

恐らくは私と同じき思考かと尺取り虫の尺取り進む

まん丸の虹の真中に飛行機の影ありその中私をりき


2月  四分儀座

瓶に挿す幸福の木の葉の増ゆるいよよ真白き根っこもいづる

地平まで続くカンポの真ん中に両手に受けむ流るる星を

粟餅の搗きあがる刻目指しゆく今朝の散歩は重く帰りぬ

何もない訳ではない真空はダークマターの満ち満ちるとこ

スパイスの織り成す味のしみじみと甦りくるインドのことの

直ぐ伸ぶる若松大枝抱きゐる私の家へ帰りゆくとき

宇宙間の地球の位置を確かめて初日の光り私に来よ

初日の出昇れるまでのいますこししぶんぎ座流星群の方を見てゐる

月を背に北の空に目を凝らし「壁面四分儀座」放射点辺り

頑なひとり心に生きこしが襷をつなぐ心のあるを


新年  ねんねんぼう餅

富士山はとても巨きい近づきぬ朝昼晩の影と光と

朝の陽に輝(て)る富士山と逆光のいぶし銀の暮るる富士山

二○十二年最後の花の花々の花咲きてゐる私の部屋に

携帯の電話壊れしその故に私も壊るる秋の一日は

何に勝つ何に負けると知らぬまま地球の上のひとり人間

青空に青き煙のふはふはとねんねんぼう餅搗きてしをらむ

木星とオリオン星座とシリウスと親しくなりぬ一方的に

自の窓には見えぬ星々も映像として巡る巡れる

十三ヶ月かけて同じき位置に戻る惑星といふ赤い木星

地球より千三百倍も大きいとこの赤き星今宵見てゐる


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