2022年 短歌

5月  千の手

三河より奄美大島より巡り逢ひまた逢ふために今日を別るる

あのこともこのこともまた過去にして明日ははじめむ未来といふを

大幅に歩みゆくゆく恵比寿道今日の歩数に至らむために

関東ローム層に建つビルディングひとり住みつつひとり安らぐ

関東のローム層のま白き独活よ手造り味噌を少し添へる

日本語の通じる故に心安し京都にゆかむ大阪へ行かむ

花びらはまろまろまろまろ吹き溜るあるか無きかの重量掬ふ

のりこえてゆきはしない常に地球の丸み見ゆる範囲を

しばらくは見下ろしをりぬ羊雲ひとつ羊を突き抜け着地

物思ふ心も高き空にあり常の心と少しことなる

千の手の一つ一つのお道具のひとの心の則を越へない

まどかなる金の輝よひ輝よひて私におよぶ金の輝よひ

8Bの鉛筆より出づわが線はほくほく今年の馬鈴薯となり

墨を擢る墨匂ひたつ濃く淡くひと筆にして人の姿を

まっ白し蕪をむきゆくまっ白し一番だしに少し色づく

4月  たをやかに

和紙よりも岩絵具よりも白くしてひと花開く白玉椿

ひた走るのぞみ号の窓により今日の朝の父母ちちははの墓

歩みゆく歩みゆきゆく伏見道貫名海屋筆塚に会ふ

選ばれし景色の中に正座していま再びの瞬きもせず

どの道もどの家々も南天の赤き実稔れり北山の道

なだらかに起伏ありつつひと所今日の入り日の入りゆくところ

やうやうに明りを残す山際を見守りゐたり暗がるるまで

たをやかに三十六峰たをやかに今日たずねたり一つの峰を

ひと日ひと日三百年の過ぎしこと石の仏のほのぼのまろし

自らに出来ざる速度に身をゆだねどこどこまでも行かむ試み

吉野川ここより紀の川流れ継ぐこの接点に来たりしことよ

ここよりか黒潮に乗るそのままそのまま補陀洛浄土

生と死のはざまなりけり那智の海ただごとならぬ黒潮の色

積雪の高野山に登りこし弘法大師とこのひとつ夜を

神仏と共に食する共に祈る根菜青菜丸餅雑煮

3月  聖観音菩薩

一刀を一刀毎を心して彫り続けいる聖観音菩薩に逢はむ

聖観音像彫りゐる日々にして自ずからなる静寂のなか

一刀を一刀毎に新しき香りいでこし香り重ぬる

新しい檜の香りをつくりつつこの幸せの日々の重なり

「フンガ・トンガ・フンガ・ハアパイ」私の窓の太陽仰ぐ/p>

仏とは性別について男女超え人については存在を超え

仏とは太陽のごとく太陽であり母のごとく母であると

歩きはじめた玉由はペンギンについてゆくペンギンの家ハルデス半島

アルゼンチンに生まれし由野の誕生日由野の歴史としみじみ過す

蓮の芽のほんのり梅酢色にして今日は由野の誕生日

カリカリとやさしく手引くかガーと機械音かジャマイカよりのコーヒー豆よ

三十八階の窓よりの見下ろしは武道館・皇居の森・国会議事堂・富士山も

雲海のまっただなかを突き抜ける富士山頂上見下ろすしばし

どのビルも屋上べて®マーク逃げるといふを思ひてしまふ

蓮蕾・蓮の花・蓮大葉・蓮根・蓮芽の梅酢漬の色

2月  生命の歴史

太陽より一直線に来たれるを私の部屋に太陽満ちる

太陽より一億五千万キロを隔たりて頂度よろしき温度となりぬ

いまいづる冬の太陽せなにしてスカイツリーの見えてゐる窓

35億年の生命の歴史に連なれる今日の私のいとほしくして

メタンとアンモニアとアミノ酸とタンパク質と核酸と原始細胞代謝の次第

充分に楽しく過してゐる地球このままこのままこのままが良い

天空にわずか小さしマイクロムーン名付きし道理ほんのり小さい

京都より三段重のお節の届く日本入国隔離中の子等

地球上の四千五百万種の生物のその一種にて今朝を目覚むる

雪華模様この天然の現象に同じ模様は一つだに無し

自らの思考には存在せぬことも宇宙のいとなみ素直に受くる

雪は降る同じ結晶一つだに無しと思ひて雪を見てゐる

人間の造りし物の何もないパタゴニア草原思ひだせり

獅子柚子はムクロジ目被子植物門双子葉植物綱ミカン属ブンタン亜種と

山脈の向こうにもあり山脈はもっと向こふへ行きし人あり

1月  銀 杏

日本を知りたく歩む山の辺に二尊院あり知りはじめむを

此岸より「発遺の釈迦」彼岸へは「来迎の弥陀」遺迎ニ尊の二尊院

荘厳と長寿と鎮魂のギンクゴ・ビロベは公孫樹とぞ

平安の世に日本へ伝はりぬイチョウ科イチョウ属イチョウ

一億年前に栄へしと公孫樹氷河期凌ぎて今日の銀杏

二尊院の古代思ほふ銀杏を今朝も炒りをり10粒のほど

小粒にて濃き濃き緑の銀杏は太古の味と勝手に決める

マプサウルス・パタゴニクス・アウカマウェボ銀杏朝食大騒動

最初から最後までを意味すると阿吽の途中私の命

五日ほど留守にする故残りゐる食材集めてピザ出来上る

羽田より航空マップの一本線その上飛んで奄美大島

限りなく奄美の自然に混じり入る太古のことよ今吹く風よ

車輪梅の濃き緑の葉の中に幾枚混じる赤葉の不思議

絹蛋白と車輪梅タンニンと泥田の鉄分子奄美大島泥染紀行

目に見えぬ黴菌ばいきん地球を被ひいて静かに過す静かに眠る


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