2023年 短歌

4月  スケッチブック

物質は温度により個体液体気体プラズマ変化をすると

見ゆる星見えざる星々宇宙の星と同じ素質をもつと人間

一四六億個の脳細胞を持つ人間一個なりとも減らさぬように

未使用のスケッチブックも並べあり私の本棚進展止む

どこまでもどこまでも出掛けゆきスケッチブックに残ることごと

人体美学と人の姿を描きこしその美しさを心にとどむ

厳寒の奥伊吹山系の伏流水「勝利の酒」をいただきしこと

はるかなり加藤清正公の「勝利の酒」を大谷投手投球中

これ以上美しきことを知らず大谷投手の投球フォーム

マメ科なる蘇枋木の色素にて母の好みの紅紫の着物

染井吉野の桜の花の咲き初むるありがとうの心満ち満つ

「ひとりしづか」の花咲きゐでるひとり静かに見てゐる静かさ

瑠璃子姉の住みをりき恵比寿にて遅すぎたこと取り返せない

風景をスケッチをクロッキーを描きしページの端々に落書

応神天皇の百済より「論語」「千字文」漢字伝来はじめ

3月  植物図鑑

亜熱帯照葉樹の森にゐる火の玉だった地球の今を

生涯の最後の絵を描くために「生きている」と田中一村

深緑の緑の中に時々は赤きホルトの古葉を見つつ

パパイア・デ・アマソーナと呼びをりき南米原産パパイアは奄美に栄える

ムーチーの日餅を包むはショウガ科ミョウガ属ゲットウ月桃の葉

二メートル程あり大葉を幹先に黄金の剛毛恐竜とヒカゲヘゴ

木性のシダでありヒカゲヘゴ亜熱帯奄美大島大昔のつづく

雄株と雌株とソテツ科にて実ではなくして毒もてるたね

樹皮と根にタンニンを含むシャリンバイ芭蕉布大島紬の染料であり

十両は薮柑子百両は唐橘千両は千両万両もまた万両

はるかはるか太古に始まる命の歴史今日の私の命を加へ

日本列島を伝ひ来たりとアサギマダラ奄美大島にて出逢ひしことを

熱湯にほぐれゆくゆくハイビスカス茶濃き濃き紅に我身を染むる

雪積る日もありといふ常夏の奄美大島宝の島よ

走りゆく車の窓より驚けり茂る緑に紅葉混じえてホルトノキ

2月  旅ゆく

旅ゆくといふ出立いでたちの整ひて地球を覆ふ大空を向く

祖父祖母の庭より見上げし天の川私の心の原点のまま

一万メートルに少し足らざる飛行中ほのかに丸く地球見下ろす

車輪梅の煮出し汁テーム木のタンニン酸泥の鉄分赤褐色に染まりゆく

米粉に薩摩芋を擦り入れて発酵促す“神酒”となる

スケッチをしておられしことを“田中一村”私も描かむ奄美の石を

黒潮の流れの中に奄美島ここに有り有る確かなことの

海の果て海の底辺楽土の話水平線の彼方より来し

二万五千年前旧石器時代の遺跡発見貝の装飾獅子の抽象

太平洋と東シナ海とに囲まれてアダン・ヒカゲヘゴ・クワズイモ

図鑑もて一本一本照らしゆくマングローブ林の構成樹種を

父母の庭にノボタンの花咲きをりき奄美島の紅紫の花に寄る

海風は強く強くハゼノキに果実は木蝋の原料になる

無患子むくろじのサポニンにて洗ふ大島紬洗ひ洗ひて出来上りゆく

玉串と神事に要するアマミヒサカキ奄美大島固有種にして

1月  奄美大島へ

太平洋と東シナ海の内にして亜熱帯独特植物奄美大島

東シナ海と太平洋とをひと目にてマングローブ林に分け入らむとす

「アダン」「ヒカゲヘゴ」「クワズイモ」「サガリバナ」「メヒルギ」「オヒルギ」「モダマ」出合ひつつ居る

常緑のつる性大木螺旋によじれ大いなる豆果「モダマ」なりをり

南南東の風吹きてゐる奄美大島吃驚仰天びっくりぎょうてんあのことこのこと

カジュマルの林に潜りまず出会ふ10センチ程のベビーカジュマル

奄美大島太古の島のいとほしいまろまろとしてほのかに甘い水

奄美なる泥の鉄分とシャリンバイのタンニンにて大島紬を染めあぐること

木性のシダ「ヒカゲヘゴ」は亜熱帯やんばるの森にて近づきゆくよ

今を生きる化石であると木性シダ「ヒカゲヘゴ」黒潮の森へわけ入る

山のしい段々畑の薩摩芋山肌崖地に蘇鉄群生

亜熱帯常緑広葉樹の森と黒潮の海を見下ろす

太古より今に息づく命のことを宇宙の地球の奄美のこと

奄美なる豊潤な水よりの生命はつなぐ私の命加ふる今日は

淡水と海水と混り合い合う汽水域マングローブの群落に入る

昼間でも暗い原生林国の天然記念物特別天然記念物の動物達の住む

世界一巨大なさやを成す「モダマ」マメ科木性つる植物

風強い海岸にありアダンの木「田中一村」絵画きしところ

水平線のかなたより幸せが訪れくる伝説ネリヤカナヤ


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