2021年 短歌

3月  聖観音菩薩

雨降りぬ風吹き荒れぬ雪積もりコーヒー木の枯れ枯れとなる

自粛とは自身の心に向かふこと彫刻刀と角材をもて

二千五百年前実在のシャカ族王子様仏陀となられし

桧科桧属針葉樹日本特産肌目良し一刀一刀香り立ち立つ

人間の姿に一番近いとぞわが観音像はわが手にて彫る

彫るといふ一刀一刀重ねつつ桧の香りに包まれをりぬ

彫るといふ動作の随(まにま)思ひ出づ知るを限りの仏陀のことを

まだ数(かぞ)へ得る現実の数字かと埋(うづ)もれゐたる桧木屑(きくず)に

新しき思ひ湧きつつ桧材仏陀となりてゆかれるところ

出家前のお釈迦様がモデルなりと聖観音菩薩像を彫らむとしをり

中国語日本語梵語チベット語漢語ウイグル語トルコ語書写されてをり観音経

左手は花茎長く蓮華の蕾右手に聞き初(そ)む花弁聖観音菩薩

怖いこと災の無き手助けを聖観音菩薩像彫らむとす

個別的全ての人に合はする救済一刀一刀偲びて彫らむ

鏡もて自らの首すじ確かむるわが身を加ふ観音様に

2月  赤道を

英国へ船旅をせし祖父にして「皇太子白馬」連れ来しことを

塩風と太陽光と夜の星と赤道よぎりてアルゼンチンへ

「赤い線引いてない」と驚けり赤道海域通過してゆき

地球なるまろみの見ゆる水平線四十五日間眺めつづけて

狛犬がシーサーもゐるペンギンも権現山の頂上に住む

門松も仏壇も神棚も父母の位牌も心の内に仕舞いあり

見下ろせる景色の中へ入りゆくうとう坂を下りきたりぬ

自の心の内の神様へ八海山の雪どけ水の大吟醸

擦りおろす柚子皮を練り込めり柚子香りたつ柚子切り出来る

二八の蕎麦茹であぐる冷水に締め新しき年となりたり

箱根西麓標高五十mスズナ・スズシロ・セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ

米五勺七倍ほどの水に炊く芽吹き七草七草粥を

ほんのりと日本のお米の甘さにと懐かしきごといとほしきごと

ひとつだに同じ形は無きといふ無限に続く無限の結晶

あのこともこのこともまた甦(よみがえ)る私一世のあのことこのこと

1月  注連縄

登りくる朝の光りは一直線水栽培の九条葱の辺

一直に私に来る太陽光一億四千九百六十万キロを

少しづつ明かるみきたる朝の陽に向かひて思ふ仕合わせだ

おおいなる宇宙の内にぽつねんと独り居る時太陽きたり

少しづつ位置の動きて太陽光私の範囲を離れゆきたり

また明日(あした)明日逢えるを心して残しゆきたる温もりに居る

ぐるぐると渦巻き初(そ)めて事始めぐるぐるぐると今の宇宙に

一つ一つ思ひ出もてり思ひだす私の一世に集まりし物

温もりの伝ひきたりてほのぼのと私の全身整ひてゆく

カイロとは「手」プラクティックは「技術」にてひととき居りぬギリシャ語の内

目に見えぬ黴菌群の漂ひに研ぎ澄ましをり全身全霊

裏庭の松と裏白と取り揃へ門松かざりき祖父と一緒に

まっ白く湯気たち込めてお餅搗き杵(きね)振り上げる祖父の面影

長く長く外つ国にをりしこと今年いただく茲姑のお節

父と母と続き続くる印(しるし)にて新藁香る注連縄とどく


Copyright (C)2002 Yuri Imaizumi All Rights Reserved. このページに掲載されている短歌・絵画の無断掲載を禁じます。